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「…………」
「…………」
無言のまま、彼らは互いに見詰め合っていた。それに耐え切れなくなったように、深紅は視線を逸らす。
「……い、いつまで乗ってんのよ。早く……どきなさいよ……」
いつもの強気な口調ではなく、弱々しい口調で彼女は呟く。だが、それでも空木は動かなかった。
「……ほ、ほら!こんなところ誰かに見られたら……」
そう言って、彼女は空木の体を押し返そうとする。その左手を、空木は右手で押さえた。
「あ……」
空木は、ただジッと深紅のことを見下ろしている。それを、彼女は潤んだ瞳で見上げていた。
「……ミク」
顔を近づけられて名前を呼ばれた瞬間、彼女の体が一瞬ピクリと跳ねる。
「……ウツギ……」
それから彼女は、何かを受け入れるようにゆっくりと目を閉じた。
「ミク、この時計って時間あってるか?」
「……は?」
深紅が目を開くと、空木は自分ではなく、左腕に着けている腕時計に向けられていることに気づいた。
「まずいな、もう八時前だ。どうやら、僕の部屋の目覚まし時計は、30分ほど遅れているらしい」
そう言うと、彼は何事もなかったかのように立ち上がる。それを、深紅はポカンとした表情で見上げていた。
「ん?どうしたんだミク?頭でも打ったか?立てるか?」
「な……なっ……!」
彼女の口が、わなわなと震える。それから彼女は、大きく息を吸い込んだ。
「もうっ!なんなのよぉぉぉぉぉぉっ!!」
悲痛な少女の叫びが、よく晴れた青空に広がっていく。今日も一日、いい天気になりそうだった。
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