1人が本棚に入れています
本棚に追加
―1
「なあ、ミクの家って向こう側じゃないっけ?」
文化祭実行委員会の仕事を終わり、帰宅途中だった空木は、隣を歩く深紅に尋ねた。彼女はなぜか、空木のアパートがある方向について来ている。
「え!?あ、うん、まあ……そうなんだけど……」
彼女は言いよどみながら、自分の髪の先をクルクルといじる。その視線は、チラチラと空木のことを気にしながら、それでも彼のことを直視できずにいた。
「何か相談でもあるの?また魔術師がらみのトラブルなら、うちの居候を貸すぞ。あいつ、暇を持て余してるみたいだからな」
そう尋ねると、深紅はほんのわずかに頬を膨らませる。
「別に、あの子は関係ないわよ」
「え?ああ、そうなの?じゃあ、僕に何か用?」
彼女はほんの少しだけ頬を赤くすると、コクンと首を縦に振った。
「その……この間のこと、なんだけどね。ちゃんとお礼、してなかったから……」
モジモジとしながら口にする深紅のことを見ながら、空木は首を傾げる。
「別に、そんなこと気にしなくてもいいのに」
「き、気にするわよ!何かお礼しないと、あたしの気がすまないわ!」
強い口調で言われ、空木は訳も分からず目をパチクリとさせた。
「だ、だから……あ、あのね?今度の日曜日……もし、あんたが暇なら……」
そんな二人の様子を、ビルの屋上から眺めている人物がいた。黒いジャケットを羽織り、ブロンドの髪をした中学生くらいの少年が、眼下を見下ろして微笑む。
「ふ、実に初々しい。まさに青春真っ盛り、って感じで本当に幸せそうだ」
そう言いながら、彼は腰に差してあった拳銃を抜き取る。彼はそれを、月明かりにかざした。
「残念ながら、それも今晩で終わり。今のうちに、せいぜい愛しい彼との会話を、楽しむといい」
少年が静かに微笑むと、不意に後ろから足音が聞こえてくる。まるでステップを踏むような足取りに振り返ると、そこにはゴシックドレスに身を包んだ少女がいた。少年と同じブロンドの髪を後ろで編み込み、透き通るような碧の目をした少女は、人形のように美しい。
最初のコメントを投稿しよう!