五章 背徳の讃美歌

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すぐ背後では、上下が真逆に入れ替わった床から、まるで逆(さかさ)に宙吊りにされた大きな聖母の像が二人に視線を向けているようだ。 欲望の深みに囚われた乙女… 聖母はその姿を嘆くのか それとも……… 像は無表情の中、白い頬にうっすらと微笑みを浮かべる。 その姿こそ神の子としてのあるまじ姿… 男根を淫らにくわえる唇の端からは涎が溢れ、顎へと伝って胸元まで滴る。 熱い口内の圧迫で張りと太さを増すそれは、口にしているだけで、乙女をただの雌へと変えるのに十分だった。 グレイはため息を溢し深く息を吸い込む。 「……はあ…っ」 瞳を閉じると美しい唇から熱い息が漏れた。 …たまらぬ── どんどんと濃くなっていく甘い血の香り… 熱るマリアの耳から首筋に添った脈がグレイにはっきりと見える。 咲き誇る花のような濃い蜜の香りにグレイはもう十分だとばかりにマリアの動きを遮った。 「―――!…あっ」 「そのくらいでいい…」 熱い唇からじゅぽっと力強いものが引き抜かれる。 上から見下ろす冷たい瞳。なのにそっと伸ばされた腕にマリアはとてつもなく心を絡め捕られてしまう。
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