えー魚いかがですかー えー魚ぁー♪ 魚ぁー♪

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時代はトトトンと振り返りまして、元禄7年。 いやー戦国の世とはなんだったのでございましょうかってぇーぐらいに、街にはパァーっと華やいだ雰囲気がありましてね。それはそれは、どこを歩いても、お天道様がご機嫌斜めな風体なんざこれっぽっちも感じないてな具合でございますよ。自由気ままな長屋暮らし、おい、ちょいと出かけてくるよってぇーな具合に、ちょちょっと大工仕事をこなしまして、夕方には、芝居小屋で一息、さらに暮れて来ますと、ちょいと一杯ひっかけて、長屋に帰り床に就く。いい具合でござんしょ、ねぇこいつはとってもいい具合だ。なんせね、ぽかーっとすっかり考えなしに決められた毎日を過ごせばいいって塩梅なんでございますよえぇ。最近なんでごぜぇますが、あっしの長屋にも、あちらこちらから行商が来るようになりましてね。やれ風鈴だの、やれ大根だの、やってくるのでございますよ。こっちとらぁわざわざ出かけなくても、汁物の支度やらなんやらできる訳でございますから、これほど便利なものはないてなもんでございましてね。おっと、噂をすれば、聞こえてくるじゃぁありませんか。今日は何をつかませてくれるのか、これもまた楽しみの一つなんでございます。 えー魚ぁー、魚はいかがですかー♪えー魚ぁー♪ おや珍しい、魚屋さんでございますか、どれちょっと覗いて見ましょうかね。ちょいと、何が入ってるんだい、見せとくれよ。 へぃ!ただいま! この魚屋さんなんですがね、大きな天秤をしょって来ましてね、何やら重そうにするんでございますよ。これは、さぞかし、上物が入ってるんではないかと期待して天秤の蓋が開くのを上から眺めていたんでございますよ。どれどれ、中身を拝見。 あれっ………、ちょいと魚屋さん、これ、ただの氷の塊じゃぁねぇですかい?魚はいずこぇ? いやー驚いたのなんのって、蓋がパッと空きましたところ、そこに現れたのは、ただの氷の塊なんでございますよ。魚なんて影も形もないんでございますはい。まー今日もお天道様がカァーッと熱い日でございましたから、そりゃー腐っちゃいけねぇーとの事なんだと思いやすよ。ですがねぇ、氷ってぇのは、透けてるもんでございやす。どこをどう見ても、氷の向こう側に見えるは、天秤の底なんでございますよはい。 ちょいと魚屋さん、今日はもう店仕舞いなのかい。魚が見当たらないようだけども。
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