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椎名は、入学当初から目立つ存在だった、らしい。身体も大きいわけじゃないし、中学のときに目立つプレイヤーだったというわけでもない、それでも、かなり目立っていた。らしい。おれは、最初椎名の存在を気にも留めていなかったので、そんなに目立っていたということは後から知った。
「あいつ、おもしろいな。」
四月、岡島がぼそっとそう言ったのが最初だ。視線を追うと、新入部員が群れているあたりに岡島の眼は向けられていた。
「岡島がそんなこと言うの、珍しいな。どの一年生?」
「ほら、あのちょっと……うるさそうなのがいるだろ、実際うるさい」
どれだよ、と笑って、でも次の瞬間にはもう笑えなくなっていた。風が吹いたような気がした、というのは、大袈裟だろうか。笑顔が大きくて、驚いた。ボールを抱えて、飛び跳ねるようにして他の一年生とじゃれている、それが椎名だった。
岡島の見込んだ通り――なのかどうかはわからないがとにかく――、椎名は目立った。よく走りよく跳び、練習には欠かさず来た。めきめき上達した。部活以外ではよくふざけ、よく笑った。大勢入った部員が、例年通り大勢やめても、椎名は残った。誰かがやめるたびに複雑な表情をしていたが、やっぱりいちばんうるさいのは残ったな、とおれたち三年からからかいの混じった祝福を受けると、嬉しそうにした。
「あいつ、いつかキャプテンになるだろうな。」
岡島も嬉しそうだった。おれもそうおもった。現在キャプテンを務める柴でさえ椎名のことを褒めるくらいだし、他に適任はいない。おれたちが卒業して、椎名は二年になって、試合にもばんばん出て、キャプテンに選ばれて、4の数字のユニフォームを着て、三年になるんだろう。
「心配か? 大丈夫だろ、あいつなら。あんなうるさいやつだけど、人望あるしな。」
岡島はおれの顔を見てそう言った。おれは黙って笑った。心配なのはそんなことじゃない、とは言わなかった。
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