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六月の半ば、よく晴れた日が続いたとおもったら、梅雨に突入するなり豪雨が続くようになった。そして、せめてきょうくらい晴れないかな、というおれの願いもむなしく、きょうも朝から激しく雨が降り続いている。きょうは外練の日なので、こう雨に降られては練習できない。できないと言っても、コートの隅を借りて柔軟とか、体育館脇に設備があるので筋力トレーニングとかならやれる。でもそういう日、椎名は部活に来ない。なんでも、「ちっちゃいきょうだいいるんで、雨の日くらい帰ってやりたいんす」というのが理由だ。理由になってない、とおれはおもうが、それでゆるされるのが椎名だ。
とにかく、椎名がなぜかきょうはいるんじゃないか、とか変な期待はしないようにして、おれは体育館に向かう。こんな雨の日は、柔軟して、バレー部が休憩してる間にシュート練習して、柔軟して、の繰り返し。
「椎名、きょうもさっさと帰ってたな」
岡島に言われて、改めてがっかりする自分の愚かさがいやになる。それでも、いつもと変わらない顔で、雨だからな、と笑う。
「ああ。……ちっちゃいきょうだいってほんとにそんなにちっちゃいのか、て言ったんだけどな。ほんとにそんなに、ちっちゃいらしい」
岡島の言い方がおかしかったらしく、横でストレッチに励んでいた後輩が笑う。
おれはふーん、と言いながら岡島の背中を押す。
「いてて。機嫌わるいな、須賀」
「そんなことないけど。ほら、もっと脚ちゃんと伸ばせよ」
そう言ってさらに強く押したところで、おれたちのいるすぐ近くの壁が、ばしんと大きな音で鳴った。白いボールが転がっていくところだった。バレー部のほうからボールが飛んできてしまったらしい。おれがそのボールを掴むと、一年生らしき球拾い要員が慌てて走ってきて頭を下げる。
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