5人が本棚に入れています
本棚に追加
おれはおもわず岡島の顔をじっと見ていた。
「……なんて言った?」
確かに聞こえていたが、きき返してしまう。岡島はそれに構わず言葉を続ける。バッシュを持つ手にかなり力が入っているようで、指先が白くなっていた。外の雨音が、強くなる。
「それで、あいつは気持ち悪がってるんだとおもう。一年でクラスいっしょだったんだ。いまは、理系と文系だしちがうけど。一年ときは席も近くて、それで喋るようになった。……二年なって三年なっても、たまにつるんでた。運動部同士だし、部活ない日とか、家行ったりしてて、」
ふ、と笑って、その手からバッシュが落ちた。
「それですきだって言って、終わらせた。」
しょうがないんだ。これでよかったんだ。
岡島は笑いをにじませてそう付け加えた。無理をした笑いだと、わかった。震えているその不自然な声のまま言う、でも男に好かれたとこで、そりゃ気持ち悪ィよな。
ざああああ。体育館の屋根は、雨の音をやけに響かせる。
それからおれはどう答えたのか、思い出せない。気づくと岡島は帰ってしまったらしく、いなかった。低い天井の蛍光灯が、音を立てて点滅していた。狭い部室は、湿度が高すぎるし暑かった。おれはパイプ椅子に座って、じっとしていた。椎名が、現れるまで。
最初のコメントを投稿しよう!