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勢いよくドアが開いて、身体をびくりと震わせた。必要以上に身体が揺れてしまったのは、きっと、現れたのが椎名だったせいだ。
「うおッ! あれ、須賀さん? 何してるんすか?」
飛び込んできたのは椎名だった。なんだー、びっくりさせないでくださいよー、と笑っている。Tシャツと、体操服のようなハーフパンツ。
「……椎名こそ。おまえ、それパジャマじゃないの?」
おれがなんとか先輩の顔をして答えると、へへへと白い歯を覗かせながら、Tシャツの柄――あまり意味のない英語のロゴ――を両手で隠すように押さえる。
「ばれました?」
寝起きのときのように、髪がばさばさしている。蛍光灯がついたり、消えたり、明るくなるたびに椎名の腕や首、頬に水滴が光る。
「まだ、雨。降ってるんだ?」
「へ? ああ、すごいっすよ。って音聞こえるじゃないすか、ごうごういってますよ。一応傘さしてきたのにこんなびっしょびしょんなるんすもん」
ざああああ。ごおおおお。やむ気配がない。
椎名は自分でがしゃがしゃと髪をかき、水を払っている。
「ちっちゃいきょうだいは、大丈夫?」
「あ、はい。もう八時すから、寝てます」
「早いね。ほんとにそんなにちっちゃいんだ」
「そうっすね、上が小学校と、下は幼稚園なんで。親ももう帰るって電話あったんで平気っす。風呂も入れたし、メシも食わしたし」
「おにいちゃんしてるんだな椎名」
「へへ。ま、こんくらいはしますよ。あ、でも……雨だからっつって帰ってすんません」
「雨の日は心細いからね。」
ざああああ。
「あ。そうそうおれ傘取りに来たんですよ。あんめ降ってないうちに帰っちゃったんで忘れてて」
「そう」
ばこん、とロッカーを開ける。蒸し暑い部室の空気をロッカーの扉がすこし動かす。うわーユニフォーム洗わねーと、と独り言。蛍光灯の点滅。
「でもやっぱ須賀さんいたんすね。八時まえかーもう帰っちゃったかなっておもいながら来たんすよ。でも須賀さん、よく終わってぎりぎりまでシュート練してたりするじゃないすか。いるかなって」
「……きょうはもう警報出たから、早めに上がらされたんだよ、皆」
「え? 警報すか。うわ知りませんでした。でも雨って学校休みにならないんすよね、明日も雨ひどかったらチビたちが文句言うなあ」
ビニール傘を開く。くるくる回す。回る。首筋を雨が流れ落ちる。それを蛍光灯が見せる。
ざああああ。
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