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(ガサガサ…バリッ、バタンッ! ゴソゴソ…)
「……桂ちゃん?」
午前三時過ぎ。
目を閉じてすぐに眠ってしまった俺は、リビングの方から聞こえた物音で再び目を覚ました。
隣で寝ていたはずの桂太の姿はなくて、暗闇の中、起き上がって音のする方へ行くと、カウンターキッチンの向こうに人影が見えた。
「桂ちゃん?…何してんの?」
「来るな!」
「……え?」
(ズルズル……ドサッ!)
「桂ちゃん!」
黒い影は突然その場で音を立てて崩れ落ちて、俺は急いでそこへ駆け寄った。
「だから、来るなって言ってんじゃん……」
「そんなんいいから、どうしたんだよ?」
「いや、やっぱり、喉が……」
シンクの下の扉にぐったりと凭れ、手足をダラリと投げ出した桂太を両手で支える。
暗くてよく見えないが、辺りには冷蔵庫から何かを出して食い散らかしたような形跡がある。
「大丈夫かよ?」
「……んか、俺…」
「ん? なに?」
「…が……ほし……」
「何? もっかい」
浅い呼吸で必死に何かを訴える桂太の声に耳を傾けた。
「桂ちゃん?」
「……血が、欲しい」
「血?」
「ちょっとでいいから、血……飲まして」
「は…?」
「うぅっ、苦しっ…ゴホッ、ゲホッ! …あぁ、もぉ何で…っ」
「嘘だろ? おい、しっかりし…おわっ!!」
肩を支える手を掴まれて、いきなり凄い力で抱き締められた。
「欲しい、オト、ちょうだい」
「……は? ちょっ……」
「もう限界、ちょうだい、痛くしないから、ちょっとでいいから…」
「桂…ちゃ…」
「お願い、オト、助けて……」
コイツのどこにこんな力が残っていたのか。
何かに取り憑かれたように俺に縋る、桂太の頬を両手で抑えて正面から顔を見た。
青白い頬で、得体の知れない苦痛に顔を歪めながら、その瞳だけがまるで夜行性の動物みたいに銀色に光っていた。
額には玉のような汗が浮かび、指先は氷みたいに冷たい。
いくら俳優だって言ったって、この人にこんな迫真の演技ができると思う?
「オト……助…けて」
喉を掻き毟るようにもがき苦しむ桂太を見て、その時俺はやっと理解したんだよ。
嘘でも何でもない、この人……
本当にドラキュラになっちゃったんだって。
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