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「いいよ、やるよ、俺のでよけりゃ」
着ていたパーカーを脱いで、Tシャツ一枚になった。
恐怖心がなかったわけじゃない。だけどこれが本物だと頭で理解しても逃げる事なんてできなかったんだ。
どうしてそうなったのかなんて知らないよ? 理由なんてそんなのどうでもいい。
ただ目の前で苦しんでるコイツを……
俺を必要としてる桂太を見捨てるなんて、どっちみち俺にできるハズがなかったんだ。
「血が欲しいんだろ? どうやって?
やっぱあれかな? ガブッとやんの?
まぁいいや、どうぞ? ほら…」
「ごめん、オト……」
投げ出したままの桂太の足を片方持ち上げて、腹を決めて足の間にあぐらをかいて座る。
嫌な汗の流れる自分の首筋を手のひらで拭ってから、銀色の瞳のドラキュラを両手で抱き寄せると、俺の背中に腕を回してギュッと一度抱き締めた。
「嬉し…オト。ずっと好きだった」
「フハ! 何それ? このタイミングで言う? それ」
「ごめん、こんな姿になる前に……もっと早く、言えば良かった」
「いや?どんな姿だっていいよ……」
俺達は多分、分かっていた。
ガキの頃から大人になるまで、お互いに大切にしてきた。
喜びも悲しみも全て分かち合ってきた。
そこにいつの間にか生まれた友情以上の感情。
俺達はそれに、とっくの昔から気づいていた。
「ドラキュラでも何でもいいよ。俺もお前が好きだよ」
「フフフ、本当に?よかった……」
本当にそう思ったんだ。
人間だろうがモンスターだろうが関係ない。
コイツとならどうなっても構わないって、本気で思ったんだ。
「ほら、早く」
窶れた頬を撫で、その手を桂太の首に回し引き寄せる。
すると、俺の目をじっと見つめていた桂太が、泣きそうな顔で頷いて不意に、俺の唇をそっと塞いだ。
「…んっ」
月明かりが差し込む部屋に、二人の吐息が漏れる。
恐る恐るなぞった桂太の上唇の奥、硬い牙を舌の先で確かめる。
鋭い歯だ。
この牙で本当に飲むの?俺の……血。
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