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先に入った音弥がお湯を流した。
その音を聞いて、俺も服を脱いでバスルームに入る。
丁度髪を洗っていて、下を向いている音弥の首筋を 右も左も穴が開きそうなくらい確認した。
「ない…」
俺が噛みついた場所。
ポチ、ポチ、と二カ所あるはずの傷がない。
「ん~? なに? 何か言った? 桂ちゃん」
「い、いや、何でもない」
全部夢だった? 俺が夢を見てただけか?
だけど思い出しただけで背筋が寒くなった。
喉の渇きは身を焦がすほど苦しくて、噛み付いた時の興奮と昴ぶりは今まで味わった事のない、震えるような強い快感を俺にもたらした。
リアルに甦ってくるその感覚を紛らわすように、タオルにボディーソープを泡立てて、音弥の背中をゴシゴシ洗った。
「いってーわ! もっと軽くして?
俺の肌はお前と違ってデリケートなんですから」
「ご、ごめん」
リアクションもいつもと変わらない。
そうだよ、音弥の肌は子どもの頃からデリケートなんだ。だからあんな痕、一晩で消えるわけがない。
そう思って、泡のついた手で優しく洗いながらもう一度よく見たけど、でもやっぱりそれらしき痕はない。
「ねぇ、本当に覚えてないの?」
「だから何をよ? さっきから何なの? はっきり言いなさいよ」
「えー? ほら、なんかさぁ……ドラキュラとか?」
「ドラキュラ? 何それ?」
「血とか? 吸っちゃったりとか?」
「何言ってんの? ホラー映画か何か?」
頭を洗い終わった音弥の背中をまたタオルで洗いながら考えた。
本当に夢、だったのかなぁ……
「もういいよ桂ちゃん、あんがと。俺も洗ってやろうか?」
「うん……」
夢だったならそれでいいんだよね?だってあんなの異常だよ、狂ってるよ。
「ねぇ聞いてる?」
「……え?」
「聞いてなかったならいいです」
「え?! 何なに? もっかい言って?」
「イヤだね、ぜってー言わねぇ」
「えー! ヤダヤダ! ねぇ何? オト」
あぁよかった、心からそう思った。
俺の大事な音弥に痛い思いをさせてなくて……
大事な身体に傷なんか付けてなくて本当によかったって、安心して泣きそうになったんだ。
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