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「ハハッ! 何してんの?」
「ほらぁ、やっぱり笑った」
「いや笑うでしょ? そんなの」
ヤツの口元からは異常に尖った牙みたいな歯がはみ出していて、瞳はシルバーに近いグレーだ。
「分かった、特殊メイク? ドラマかなんか? その牙とカラコン」
「違うよ!」
これ見せるためにわざわざ呼んだのかよ?
そう言ってやりたい気持ちをグッと抑えて、俺は今日何度目かの盛大なため息を吐いた。
「じゃあ何なんすか?」
「だから、夜九時頃仕事から帰ってきて……って、昨日ロケで川下りしたんだけど」
「川下り…って、その情報いるの?」
「いや、分かんないけど。とりあえずボートで川下って、その途中に洞窟があって、ガイドさんとそこを探検して。
それからその近くの有名な蕎麦屋でみんなで蕎麦食べて、ロケが終わって家に帰ってきて、疲れてソファでうたた寝しちゃって。
ヤバい風邪引くって起きて、風呂入ろうと思って洗面所で鏡見たら」
「……そうなってたの?」
「うん、こうなってた」
何を言ってんだか。バカバカしい。
「はいお疲れ様、帰りまーす」
「ちょっと待てってば! 冗談じゃないんだって!」
「はぁ? もう勘弁してくれよ……」
そんなの付き合ってられっかっつんだよ!
「嘘じゃないんだって! 触ってみてよ!」
疑いの眼差しを向ける俺に、ヤツがあんまりムキになるもんだから、仕方なく「あー」と開いたヤツの口の中を覗き込む。
「よくできてんね、これ」
「ちーがうって、本物! 引っ張ってみ? ほら!」
ヤツに手を掴まれて、無理やり牙に触らされた。
ちょうど犬歯の位置だ。
指で摘まんで引っ張ったり揺らしてみたりしたけどビクともしない。それどころかしっかり歯茎から生えてるように見える。
「えー……本当かよ?」
「目もよく見て! あー眩し……」
「開けないと見えないじゃないっすか」
「眩しくて目が開かないんだよ」
「もー、っとに……どれ?」
ヤツのギュッと閉じた目蓋を無理やりこじ開けて、まじまじと瞳を覗き込む。
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