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すぐに、私は本当は優しくなんてされたくなかったんだと気付いた。
お金を欲しがる私に、変な優しさなどは要らない。
そんな風に優しくしたって、私は周ちゃんが望んでいるものなど与えられないのだから。
「タバコ吸いたい」
ゴロンと周ちゃんの腕枕から降りると、私はガウンを羽織ってソファに向かった。
周ちゃんはそんな私をしばらく見つめた後、私の隣にやって来た。
「どう? ちゃんと気持ち良かった?」
「うん」
「じゃあ良かった」
「あのさ、周ちゃんが気持ち良ければいいんじゃないの? 別に私のことはどうでも」
「そういうわけにはいかないだろ。二人でするものなんだから」
そうやって財布を開いた周ちゃんが、お札入れから万券を出すのを、私はじっと眺めていた。
もうきっと、戻れない。
それは私が今まで生きてきた道程だったり、周ちゃんと築いてきた関係だったり、私が持ち合わせていた自分の中の常識だったり。
「はい」
「ありがと」
受け取った2万を見つめながら、考えてみる。
本当に私に価値がついたのか。
私の価値というのは、お金で決まるものなのか。
2万というのは高いのか安いのか。
私が求めていたのはコレだったのか。
溢れ出た涙の意味が、私には分からなかった。
悲しくて? 悔しくて? 辛くて?
違う、きっと一番近いのは「虚しくて」。
「慣れないこと、するからだよ」
周ちゃんの少し呆れた声が、私の頭に響いた。
だけど周ちゃんはそれ以上何も言わなくて、私が「そのうち慣れる?」と聞いた時に「慣れるよ」とだけ小さく答えたんだ。
最初は周ちゃんから誘ってくる事が続いてーー
気付いたら私が誘う事が増えてーー
周ちゃんがお金にしか見えなくなったのはいつだったっけ。
お金のもらえないセックスを、もったいないと思うようになったのはいつからだっけ。
「慣れる」なんて可愛いもんじゃない。
かつて生きてきた世界が、損な世界に見えた。
馬鹿らしく見えた。
くだらなく見えた。
なのに、使い道もなく貯まっていくお金を見ながら、それでもずっと変わらない「虚しさ」を感じるのは、何故なんだろう。
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