私の価値

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「お待たせ」  駅前に現れた直は、約束の時間より八分程遅れた。  私はその間、駅前の喫煙所で待機。  待ってる間、「自分が待たせるのは良いけど、待たされるのは本当に嫌だ」なんていう、自己中心的なことを考えた。 「うん」 「ごめんね、コンビニ寄ってたら遅れちゃって」 「大丈夫だよ」  そんな事を言いながら、なんであんたが私を待たせるのよと思った私は、多分直のことを見下したような、雑に扱ってるような、とにかく大事だとは思っていないのだと実感した。 「どこに行くの?」 「駅前だとチェーン店位しか俺知らないから・・・・・・」 「うん、どこでもいいよ。ねぇ、私そんなにお金持ってないよ?」 「えっ? もらうつもりないよ」  直は基本的にそういう所が心配なんだ。  お店に通っていた頃も、ケチケチとチビチビ飲んで居た直。  私にドリンクを出してくれても、他の女の子には出してくれなかった。 「そう? ありがとう」  店内に入ると、「好きなものを食べていいよ」と直は言った。  私はメニューを見つめながら、どうして今日来てしまったのだろうと少し考えていた。  水商売を辞めた時、大半のお客さんは私に連絡を寄越さなくなった。  きっとそれは、結局お客さんも店内だけでの疑似恋愛を楽しんで居たからなんだろう。  そして多分、店から消えた私が、プライベートでまでお客さんと会い続けるという事を、お客さん自身が期待もしていなかったからだろう。  そんな中、いつもと変わらない調子で連絡をしてくれた直に、私は少なからず嬉しさを感じたのかもしれない。 「オムそば食べたい。あとシーザーサラダ。私、このノンアルのカクテル飲んでもいい?」 「うん、いいよ。紗希、刺身は食えないんだよね? 俺だけ食べてもいい?」 「うん」  一瞬、私がお刺身を食べれないと言う事を知っていた直にびっくりしたけれど、直はお寿司屋さんだ。  店にいた頃「今度寿司持ってくよ」と言った直は、いつも私用にイクラとタマゴのお寿司を用意してくれていた。  食べ物を待っている間は「最近どう?」「元気だった?」なんて他愛のない会話で時間を潰した。
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