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「どう?」
「どう? って?」
直の問いかけに、私は更に聞き返した。
「どう」という話題については、今ここに飲み物とシーザーサラダが並ぶまで、いくつか話してきたはずだ。
「夜辞めて。昼、楽しい?」
そういう話か。
「どうかな。喋る相手が居ないから、寂しいよ」
毎晩必ず誰かと話をしてきた。
それが仕事だったし、時にはそれが面倒だった。
だけど辞めてみて、ウザったいと感じたお客さんでさえ、私は恋しくなったんだ。
「そっか。あぁ、そうだタバコ」
直はいつも持ち歩いている、茶色に深い緑のラインが入ったポーチから、タバコを取り出した。
「ありがとう」
「生活は大丈夫なの?」
「ん~・・・・・・夜よりお金は貰えないからね」
別に、何かを求めてこんな言い方をしたわけじゃなかった。
というよりも、私が困っているのだという素振りを見せたところで、直が何かをしてくれるとも思ってなかった。
だけど別に私は、生活に困ってるわけじゃない。
普通に生きていけている。
「困ってるなら言いなよ?」
「じゃあ・・・・・・正直言えば困ってる」
「いくらあれば足りるの?」
そう言った直を、今私はどんな顔で見つめているんだろう。
「大丈夫なのか、この人は」と、まず最初に思った。
たった一言、困ってると言われて、お金を出そうとするなんて、どうかしてる。
「そんな事聞かれても、私返すあてがない」
「うん、だからあげるって言ってるんだよ。五千円でいい?」
「・・・・・・ほんとにいいの?」
おかしいのは、私だけなんだろうか。
この5千円を稼ぐのに、直はしっかり働いて来たはずだ。
だけど現金を見つめながら、私は、本当は働きたくない事に気付いちゃったんだ。
なんとなく、生きるためにずっと働いてきた。
働かないと生きていけないから。
生活が出来ないから。
そういうものだと思って、後回しにしてきた考えを、今唐突に思い出した。
そこまでして、生きようとする意味って何?
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