7人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい」
手渡された二万を受け取って、私は「ありがとう」とお礼を言った。
もともとは、私が水商売をしていた時のお客さんだった周ちゃん。
「次はいつ会える?」
「そんな頻繁にヤッてたら、破産するよ」
「そうに言うけど、「蘭」に通ってた頃は、もっとお金落としてたじゃない」
私がもともと働いていた「蘭」で、周ちゃんはかなりの太客だった。
設備会社の次期社長だった周ちゃんは、忙しそうだったけれど、ほとんど毎日店に顔を出していた。
「現金な女だよな。最初は泣いてたくせに」
「だって、セックスしたあとに受け取る諭吉って、生々しいんだもん。精神崩壊しそうっていうか」
この話を最初に持ちかけてきたのは、周ちゃんだった。
だけど、きっかけを作ったのは私。
この話は半年前に遡る。
私が店を辞めることになった時に、周ちゃんとファミレスにプライベートでご飯を食べに行った。
「結局セックスの一つもさせてくれなかったよな」
分煙が多くなり始めた頃、そこのファミレスは、全面禁煙で、喫煙ブースを設けていて、私達は二人、タバコ臭くて狭い喫煙ブースの中で、そんなしょうもない話をしていた。
「枕営業はしない主義なの」
「それでも客と寝たこと位あるだろ?」
「ま、今だから言うけど、あるよ。好きになったこともあるしね、付き合ったこともある」
「ナンバー1が・・・・・・どうしょうもない話だね。俺が紗希のこと好きなの知ってたくせに」
「だから余計。周ちゃんの事は「お客さん」としてしか見れなかったの」
「どこまで正直なんだよ」
ちょっと眉間にしわを寄せて、苦笑いをした周ちゃんは一気に煙を吐いた。
私から言わせれば、周ちゃんはかっこいいと思う。
出会う場所が違っていたら、私は周ちゃんを好きになっていたかもしれない。
中肉中背で、作業着がやたら似合っている少しヤンチャな顔つき。
穏やかに話すトーンと、声の甘さ。
「でもほら、私もう周ちゃんとは友達だし。お店も辞めちゃったから」
「「でもほら」の意味が分からないよ」
「お金くれるなら、セックスしてもいい」
「へぇ、いくらで?」
「ツッコミどころ満載な台詞だったでしょ、今の」
お金をくれるなら・・・・・・なんて、本気で言ったわけじゃなかった。
周ちゃんが私を買うなんて選択をするとは思わなかったし、これは私なりのジョークだ。
最初のコメントを投稿しよう!