私の価値

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「はい」  手渡された二万を受け取って、私は「ありがとう」とお礼を言った。  もともとは、私が水商売をしていた時のお客さんだった周ちゃん。 「次はいつ会える?」 「そんな頻繁にヤッてたら、破産するよ」 「そうに言うけど、「蘭」に通ってた頃は、もっとお金落としてたじゃない」  私がもともと働いていた「蘭」で、周ちゃんはかなりの太客だった。  設備会社の次期社長だった周ちゃんは、忙しそうだったけれど、ほとんど毎日店に顔を出していた。 「現金な女だよな。最初は泣いてたくせに」 「だって、セックスしたあとに受け取る諭吉って、生々しいんだもん。精神崩壊しそうっていうか」  この話を最初に持ちかけてきたのは、周ちゃんだった。  だけど、きっかけを作ったのは私。  この話は半年前に遡る。  私が店を辞めることになった時に、周ちゃんとファミレスにプライベートでご飯を食べに行った。 「結局セックスの一つもさせてくれなかったよな」  分煙が多くなり始めた頃、そこのファミレスは、全面禁煙で、喫煙ブースを設けていて、私達は二人、タバコ臭くて狭い喫煙ブースの中で、そんなしょうもない話をしていた。 「枕営業はしない主義なの」 「それでも客と寝たこと位あるだろ?」 「ま、今だから言うけど、あるよ。好きになったこともあるしね、付き合ったこともある」 「ナンバー1が・・・・・・どうしょうもない話だね。俺が紗希のこと好きなの知ってたくせに」 「だから余計。周ちゃんの事は「お客さん」としてしか見れなかったの」 「どこまで正直なんだよ」  ちょっと眉間にしわを寄せて、苦笑いをした周ちゃんは一気に煙を吐いた。  私から言わせれば、周ちゃんはかっこいいと思う。  出会う場所が違っていたら、私は周ちゃんを好きになっていたかもしれない。  中肉中背で、作業着がやたら似合っている少しヤンチャな顔つき。  穏やかに話すトーンと、声の甘さ。 「でもほら、私もう周ちゃんとは友達だし。お店も辞めちゃったから」 「「でもほら」の意味が分からないよ」 「お金くれるなら、セックスしてもいい」 「へぇ、いくらで?」 「ツッコミどころ満載な台詞だったでしょ、今の」  お金をくれるなら・・・・・・なんて、本気で言ったわけじゃなかった。  周ちゃんが私を買うなんて選択をするとは思わなかったし、これは私なりのジョークだ。
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