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「周ちゃんって、私のこと好きじゃなくなったの?」
「友達になりたいって言ってきたのは、紗希だろ?」
「そうだけど」
「だろ。でも好きだよ、まだ」
周ちゃんが灰皿に煙草を押し付けて、私はその時散った火花を眺めていた。
私が灰皿の中に落ちていく煙草を見つめていることを分かった上で、「ただ、俺が望んでも、紗希は俺と付き合う気なんて無いだろ」と呟いた。
目を合わせない私を見つめる、周ちゃんの視線が痛い。
「そうだね」
そう答えた私に、周ちゃんはそれ以上詮索して来なかった。
周ちゃんが嫌なわけじゃないことを、周ちゃんは分かっていたはずだ。
「付き合う」という行為そのものを、私が避けていることを、周ちゃんは分かってる。
「じゃあ俺がやろうとしてる事って、あながちおかしな事でも無いと思うんだけど?
気持ちで手に入らない女でも、金を出せば抱けるんだよ?」
「抱きたい? 私のこと」
「抱きたいね」
真面目なトーンでそう言った周ちゃんを見つめたら、目が合った。
「・・・・・・私、周ちゃんってそんな人じゃないと思ってた」
「お互いさま」
そうか。
私がもともとのきっかけだもんね。
「お金をくれるなら」と言った私に、周ちゃんも「そんな女なんだ」と思ったのだろう。
「会計済ませたら行く?」
周ちゃんは煙草を胸ポケットに入れて、ジーパンのポケットから財布を取り出した。
「どこに?」
「ホテルにだよ」
「本気なの?」
自分で振っといて、ひどく動揺した私は、もう1本煙草を吸おうと、煙草に手を伸ばした。
「冗談なの?」
少しだけ笑って、私がもう1本の煙草を手に取るのを止めに入った周ちゃん。
周ちゃんって、手があったかいんだ。
ヤンチャな目付きを少し細めて、「その気になっちゃったんだけど」と私を見つめた。
ずっと、紳士な人だと思ってた。
私も、ずっと純粋なふりをしてきた。
キャバ嬢とお客さんなんて、蓋を開ければこんなものなのかもしれない。
「ねぇ、2万なんて持ってるの?」
「どこか行く時は最低5万は入れてるから」
ここのファミレスで大体2500円。
ホテル代で1万円。
なるほど、足りるわけね。
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