私の価値

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 周ちゃんの車の中は好きだ。  喫煙車なのに、ヤニ臭さがない。  私の好みの、ローズの消臭剤。  私の好みの、飴やタブレット。  周ちゃんは、私が欲しいと言えば、何でも買ってくれた。  何でもと言うと語弊があるかもしれない。  そもそも私は、そんなに高い物をねだったことが無いのだから。 「ナビ、セットしないと迷うと思う」  どのホテルにするつもりなのか、周ちゃんはナビに夢中だった。 「本当に行くの?」 「行かないの? 行かないなら送ってくけど」 「・・・・・・あんまりがっついては来ないのね」 「「行くの?」「本当に?」って、しつこいからだよ」 「そっか」 「で? どうするの?」  どうやらナビのセットが終わったらしい周ちゃんが、ハンドルを握りながら、ちょっと微笑んで私を見つめた。 「んー、行こうか」  別にどっちでもいいと、そう言っても良かったんだ。  私がお金で買われてしまったら、何か私の中の精神の奥の奥の方が、変わってしまう気がした。  どこに進むかも分からないのに、戻れなくなるような気がした。  ただ、無価値な私に価値がついたからーー  変わってしまっても、戻れなくなってしまっても、試してみようと思ったんだ。 「コンビニ寄ってく?」 「ううん、いい」  どうして周ちゃんは平然としてるのか、私には不思議で仕方なかった。 「ねぇ、周ちゃんって、お金で女の子買ったことある?」 「何それ、素人の子って意味?」 「そう」 「無いよ」 「そう」  世の中はこんなものなのだろうか。  そこらじゅうで、私たちみたいなやり取りが繰り広げられているのだろうか。  あまりにも淡々としてる周ちゃんを見ていると、自分がソワソワしている事が間違っているような気分になる。  いつも通る道、いつも見る光景、別に私は初めてセックスをするわけでもないのに、なんで妙に胸がザワつくのだろう。 「空いてる空いてる」  そう言って、手慣れた動きで車を駐車場に周ちゃんは停めた。 「周ちゃんとホテル来るなんてね・・・・・・なんかウケる」 「そうか?」  ちょっとでも、笑ってくれれば良いのに。
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