私の価値

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 前を歩く周ちゃんの少し長めな襟足を見つめながら、私は五歩位遅れて、ホテルの中に入った。  ホテルのフロントに広がる甘い匂い。  壁際に並んだコスプレ用のコスチューム。  真ん中に置かれたアメニティ。 「紗希。どの部屋がいいの?」 「どの部屋でも」 「じゃあ適当に決めて」  そう言われて、私は一番安い部屋のボタンを押した。  これから2万を貰うのに、高い部屋だと申し訳ないと思ったから。  周ちゃんに限らず、ラブホの部屋選びは一種の駆け引きだと思う。  周ちゃんだって、安いに越した事は無いと思ってるはずだ。  だけどそんな事は言わずに、私に選ばせようとする。  私も部屋を選ぶ時、どの金額を選ぶのか、なんだか試されてるような気分になる。    高い部屋を選んだら、少しは気を遣えと思われるのか、それとも男の人は私が思っているほど何も気にしていないのか、そんな事は聞いたこともないから分からないけれど。 「この辺はいいの?」  真ん中に置かれた入浴剤やシャンプーを見ながら、周ちゃんが言った。 「泊まってくの?」 「明日仕事だから帰るよ。風呂は済ませるけど」 「フリータイム、十二時までだよ」  あと二時間程度しかない。 「過ぎたら宿泊に変わるだけだろ」  私が周ちゃん位お金を持っていたら、そういう考え方になるのだろうか。  だったら、サウナ付きのもう1ランク高い部屋にしとけば良かったな。  多分周ちゃんは、何も言ってこないだろう。  きっとパネルだって、金額の部分は見ていないんだろう。  私はノンシリコンのシャンプーとコンディショナー、いつも使ってるメイク落とし、何だか良さげな洗顔料をカゴに入れて「これでいい」と言った。 「紗希も風呂済ますの?」 「済ます。すっぴんで帰って、寝るだけにしたい」  「ふーん」と呟いた周ちゃんは、そのまま先を歩いて、エレベーターに乗った。
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