私の価値

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「何階?」 「二階」  エレベーターでの会話は、この二言だけだった。  部屋の番号の書かれたパネルがチカチカとオレンジ色に点灯している。  周ちゃんはドアを開けると、私を中に通した。  ーーメンバーズカードを・・・・・・と話し始めた自動精算機に、「メンバーズカード作る?」と周ちゃんは聞いてきた。 「何回もするの?」 「さぁ・・・・・・相性もあるだろうから」  そう笑った周ちゃんは、ソファに座ると、タバコに火をつけ始めた。 「紗希」 「ん?」 「大丈夫だから、とりあえず隣座れば?」  少しばかり挙動不審な私に気付いたのか、そう言われて隣に座った私に、「一服しよ」と言った。  お金が絡むだけで、こんなにもセックスをする事に戸惑いが生じるものなのだろうか。  やることなんて別に変わらない。  ただ服を脱いで、お互い触れて、重なり合って、ただただそれだけの行為。  そんなの飽きる程してきた。 「金、先に渡すと変に気負わせそうだから、終わってからでもいい?」 「・・・・・・何か特殊な事とかするの?」 「いや、別に。俺、ノーマルだから。  でもほら、金先に渡しちゃうと、嫌な時に嫌って言いにくくなるだろ?」 「優しいのね」 「あぁ、ただマグロはやめて。普通に感じて・・・・・・まぁ普通にしてくれればいいよ」 「分かった。じゃあ、シャワー浴びてくる」 「今日は浴びないで。なんかもったいないから」 「もったいない?」 「汚れたままで居てってこと。来て」  私の手を引いて、ベッドに座らせた周ちゃんは、状況を飲み込みきれていない私に、軽くキスをした。  柔らかい・・・・・・それが一番最初に浮かんだ感想だった。 「大丈夫だからさ、もうちょいリラックス出来ない?」  笑いを堪えながらそんな事を言われて、私は妙に恥ずかしくなった。 「だって、お金が絡んでるんだもん」 「じゃあ今回は無しにする?」  周ちゃんの言葉に、私はぴくんと反応した。  「無しにする」と言えなかった私。  本当はお金が欲しいと思ってる私。  セックスしてお金が貰えるなら、タダでするなんて無駄なことをしたくないと思ってる私。 「欲しいんじゃん」  まるで私を軽蔑するような目を向けた周ちゃんは、今度はキスすると舌を入れてきた。
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