ファーストキス

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ピピピッ、ピピピッ…… 目覚まし時計は、自身に与えられた仕事を全うするべく、力の限りを尽くして耳障りな音を吐き出し続ける。 気が付いてはいる。気が付いてはいるのだが、このやかましくも健気な働き者に手を伸ばす気にはなれない。 何故かと言われれば、単純な話なのだ。 体が縛られている訳でも病気で動けない訳でも、ましてや、腕が無い訳でも無い。 単純に起きるのが面倒臭いだけなのだ。誰でも経験はあるだろう。そういう単純な話なのである。 しかし、起きるのが遅くなればなるほど後々大変な思いをするのは自分であるという事は、ここ数年で学習した普遍的な事実である。 少しの怠惰が大いなる苦しみに変わる前に、この誘惑の塊から抜け出さなくてはならない。 のだが…… 何やらいつもと違う事に今更ながらに気が付き、ゆっくりと瞼を持ち上げる。 「……いつもと同じか」 例えば、もし目の前に見知らぬ天井が広がっていたりしても、僕は某アニメの有名なセリフを言うつもりは無い。 もし違う天井が目の前に広がっていたなら、違う言葉を考えて、考え抜いた上で口にする。 僕はそういう男だ。 しかし、今はそんな事を考えている時では無い。そんな余裕は無い。もう全然無い。 何を隠そう今の僕は天井以外見れないのだ。 いやいや、そんな事は無いでしょ? そういう風に思った人はこの先どんな展開を期待するのだろうか? いつもは感じる事の無い感触と、少し熱いくらいの熱を右手に……否! 自分の右半身にそんなモノを感じたとしたら、世の男衆はどの様に感じるのだろうか? 等と考えながら時間稼ぎをしてみたところで、現状を解決するには至らないのはよく分かった。 それにどうやら、そうこうしている間に健気なアイツは短いブレイクタイムに入ったらしく、いつもと同じはずの部屋は静寂に包まれている。 無言。無音。 いや…… 実を言うと、さきほどからずっと聞こえているものがある。 僕の心臓の音と、スースーと規則正しく繰り返される呼吸音。 呼吸音。
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