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イレーナ? この子の名前なんだろうけど、鈴奈はこの子と面識があるって事なのか?
いや、そんな事よりもまず優先しなければいけない事がある。
「あ、あのさぁ。 お取り込み中申し訳ないんだけど、まおって誰?」
そうなのだ。もともとこの質問をしようとしたところで鈴奈が乱入してきたもんだから、話がややこしくなって意味不明の単語が飛び出したりしたのだ。そうに違いない。
「はぇ??」
イレーナの横顔を真っ直ぐに見据えて放った渾身の一撃にイレーナはひどく驚いたようで、僕の顔を見つめたまま空色の瞳を何度もパチパチと瞬かせている。
そんなに驚くほどの質問だったのだろうか? 僕の事は先ほど『龍樹くん』と呼んでいた訳だから、まおという人物と僕が同一の人間では無いのは確実だろう。
そうなれば、単純に誰かと間違えてあんな事をした事になる訳だから、呆然とするのは当たり前といえば当たり前である。
僕からしてみればラッキーな事故ってだけだし、むしろここから二人の関係が加速して……
「お兄ちゃんは黙ってて!! これは私とイレーナの問題なの! 」
ここはキレるとこなのか妹よ。
「何で……何で龍樹くんは覚えてないの?!」
そんなに悲しそうな顔されても知らないものは知らないし、僕が知っている事は多分そんなに多くは無いし。
それにしても、半ばヒステリーを起こしている鈴奈を無視していられるなんて、僕の知る限りでそんな事が出来るのは二人くらいしか思い当たらない。
「……分かりました。せっかくこちらに来れた訳ですから、いい機会だし龍樹くんに教えてあげる」
何が分かったのかは分からないが、分からないのだが説明してもらえるならそれに越した事は無い。
出来る事なら、何も分からない僕の手を取り足を取り……
「そんな事が許されると思ってるの!? あたしが目の前にい……る」
物凄い剣幕でイレーナに詰め寄った鈴奈だったのだが、糸の切れた操り人形のごとく突然体の力を失ってその場に横になってしまったのである。
「おい……鈴奈?」
「じゃあ龍樹くん、少しお話ししようか」
笑顔で言うイレーナであったが、先程までの彼女とは明らかに印象が違う。
空色だったはずの彼女の左の瞳は赤く染まっていた。
そう、まるで血の色を連想させるような深紅に変わっていたのである。
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