雨の街に。

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 昔のこの街も、今となんら変わりなく穏やかで、とても静かなところでした。都会の喧騒を少しばかり外れ、風は驚くほど気持ちよく、空は広く澄み渡り、雨が降ってもどことなく優しい空気が流れていました。    ……え? 雨はもともと優しい? ふふ、すみません。私は雨をあまり好きではないものでして。……もしかしたら坊ちゃまは行けるかもしれませんね。あの……。  ……いえ、まずお話を先にしてしまいましょう。    この静かな街に、その日、いちばんの嵐がやってきました。今までに感じたことのない規模の大きさでした。ふだんは穏やかなこの街の風景がガラリと変わり、風は乱暴に窓を叩きつけ、雨は横殴りに家々に襲いかかってきました。もう外に出ることさえも危険な状態です。街の人たちはみんな震え上がり、家の中でじっと嵐が過ぎるのを待ちました。    そんな中、突然、二人の子供が外に飛び出して行ったという連絡が入りました。    その二人は、同じ小学校に通う同学年の少年と少女でした。二人はとくに悪い生徒というわけではなく、ごく普通の素行の子供たちでした。その連絡が来たとたん街の人たちは耳を疑いました。あんないい子たちがなぜ? あまりの雨の凄さに魅了されて外に吸い込まれてしまったのだろうか? とにかく何とかして連れ戻さなければと、大人たちは立ち上がり嵐の中を必死で捜し回りました。  外には、いつも自分たちの心を安らげてくれたあの優しい空気はどこにもなく、ただ自分たちのからだを貫かんとばかりに雨と風が突き当たる光景だけがありました。このままでは、飛び出していった子供たちは死んでしまう。街の人たちは藁にもすがる思いで二人を捜しました。  しかし、結局二人が見つかることはありませんでした。    警察に協力してもらって、街中くまなく探してみても、果ては県外の遠い土地のところまで踏み込んでも、二人は見つかりませんでした。そうです。子供たちは、本当に跡形もなく消えてしまったのです。
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