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相澤は、隠蔽しがちな学生内の事件をリサーチして報告書を作成するのが仕事で、特定の捜査をしているわけでもなかった。
「相澤さん、須賀が死んでしまいました」
「ああ、聞いた」
相澤は淡々と電話を聞いてくれたが、幽霊になった須賀と会った件では、やめろと怒っていた。相澤は幽霊の類が苦手であるのだ。
「印貢、俺、一人暮らしなの。幽霊の類はナシでな。怖くて風呂に入れなくなる」
でも、相澤が車を出し、野中の所まで行ってくれるという。
「まあ、俺も中身が気になるからさ。印貢経由だと、嘘が混じるからな」
俺は嘘など付いた覚えはないと、抗議してみたが、相澤は動じなかった。
「事後報告しかしないだろ?印貢。それまでは、何もない顔をしているのが、そもそも嘘なの」
相澤に言ったら止められるだろう。だから、黙ってしまうのだ。
「いいか、印貢。大人しく待っていろ」
大人しくと言われたが、佳親に報告すると庭でサッカーの練習をしていた。
佳親の代でも、天狗は一人死んでいる。四区の暴走を止めるのが天狗の役割なので、怪我は多いが、こうやって死亡者が出るのは滅多にない。
俺は生きてサッカーができるだけ、幸せなのかもしれない。
庭でボールを蹴っていると、征響も横で黙ってボールを蹴っていた。ボールの音だけが響いていて、ひたすらにボールを追っていると、征響にボールを蹴り込まれていた。
「弘武。下手すぎ……」
ボールは追うのではないという。ムキになってボールを蹴っていると、相澤の姿が見えた。
「印貢、行くぞ。今、佳親さんの許可は取った。今日は俺の所に泊まっていい」
相澤は幽霊が怖いのだ。
「では、荷物、持ってきます」
泊まっていいのならば、先に言っておいて欲しい。急いで荷物をまとめると、相澤の車に乗せた。
「では、行ってきます」
希子が寂しそうに見守っていた。
相澤の車は四駆のアウトドア用のもので、車高が高い。相澤がタバコを咥えているので、禁煙が出来なかったのかとからかおうとすると、禁煙用であった。相澤はタバコがないせいか、不機嫌が丸出しになっていた。
「相澤さん。須賀の両親は調べていますか?」
「……急いで来たので、あまり調べていないかなあ」
須賀の母親は、倉吉の家の旅館で仲居をしていた。父親は、大工だと聞いている。
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