『夜明け』

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「あ、船が入ってきた」  港地区は、四区と隣接しているが四区ではない。四区の人間が多く働いているので、港地区の人は四区には詳しい。  俺たちは、自販機で飲み物を購入すると、船の見える場所で休憩することにした。そこは空き地になっていて、どこかの会社の所有地であった。ベンチが置いてあるので、何も植えられていないが休憩所なのかもしれない。ベンチには灰皿も用意されていた。  船がゆっくりと接岸してくるのが、正面に見えていた。かなり暗くなってきたので、あちこちに光が灯る。 「殺された中学生、私立のサッカー部だったろ?」  天神区は、学校は四区になるのだが、皆私立の一貫校に通っていた。 「そう、須賀」  久哉が思い出したのか、頷いていた。一貫校なので、中学生とも練習しているという。 「須賀は妹が行方不明になっていて、どこかで生きていると確信していた。だから須賀は、幼い下の妹たちが又いなくなると心配して、捜査していた」  どうして須賀は、妹が生きていると確信していたのだろうか。  守っていた須賀がいなくなってしまい、下の妹たちが危ないのではないのか。 「兄さんに電話しておこう」  まだ証拠は何もないが、画像の件を佳親に説明した。佳親は、替え玉は知っていたが、子供を拉致して育てているとは知らなかった。  天神区の子供は、私立の一貫校に進む。学区は四区になるので、非常に危険でもあるので、迷いもせずに全員が幼稚園から私立に通っていた。  でも、天神区も裕福な家庭ばかりではい。須賀の家も、子供を私立に通わせるだけの余裕は無かった。かといって、四区は犯罪地区であり、子供だけが通うのは無理があった。そこの住人でさえ、子供は送り迎えしている。  そこで、須賀の家族も天神区から引っ越ししてしまえば良かったのだが、そのまま住み、金のために犯罪に手を染めてしまった。  天神区の殆どが、須賀の両親は四区と組み何か犯罪で稼いでいると疑っていた。佳親は、その証拠も掴んでしまったが、サッカーをする須賀少年を見て、何もできなかったという。 「弘武、天神区には見守っている人もいる。又、行方不明は出さないよ」  佳親は、画像データを寄越せと言うが、俺は港をジョギング中だと断った。 「野中の家の、潤哉と久哉も一緒に走っているよ。港の夜が綺麗で驚いた」  佳親は、深入りするなと心配していた。
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