『夜明け』

19/95
前へ
/95ページ
次へ
「まあね、でも、その彼女がさ。服を買ってくるというバイトをしたそうよ」  下着とか服で、可愛い物を買ってくるというバイトをしたのだそうだ。どこの変人親父なのだと断ろうと思ったが、買い物をするだけでバイト料金が貰え、しかも、そのショップのポイントが貰えたので引き受けたらしい。 「……やっぱり、四区か……」 「そうね。四区だね。親父に許可を貰った。潰してくる」  犯罪ばかりの四区であるが、誘拐された少女が一般人であった。四区は、一般人には手を出さないことになっている。ルールを破ったチームには制裁を与えてもいい。  四区は四区の中で完結するからこそ、犯罪を自分達で裁くのだ。 「藤原が動くのならば、それでも、いいか……」  俺は眠くなってしまっていた。 「弘武、会いたいよ」  俺の呼び方が、弘武となったので、彼女が帰ったらしい。 「……彼女を家の玄関までは送れよ」 「ちゃんとタクシーを呼んで、金払ってチップやって頼んできました」  そういうマメさが、藤原が女性に好かれる理由らしい。 「弘武、キスしたいよ。触れたい」  藤原が駄々っ子のようになってきたので、俺は構わず電話を切り、そのまま電源も切った。  翌朝、俺は湯沢に起こされていた。湯沢は何度も俺の携帯電話に電話を掛けたが繋がらず、心配で見に来たらしい。 「湯沢、買い物、行こう」 「こんな時にですか?」  こんな時だからこそ、家に籠りたくない。 「俺、家に一人でいたくない」  正直に言うと、湯沢が何度も頷いていた。 「そうですね。俺も、家に一人でいたくありません」  湯沢が着替えてきたので、俺も着替えてみた。佳親がいなかったので、季子に行き先を告げておく。 「行ってらっしゃい、弘武君」  希子が俺を見送ってくれた。  俺の家は、参道の終わり付近にある。家の先には神社があるが、神社の参道の両側を天神の森としていて店がない。  表参道は八百メートル程続き、その先に天神の森駅がある。木造の駅で、大きくはないが、人の出入りは激しい。  湯沢と一緒に駅に入ると、電車を待った。俺は、この駅を数回しか使用したことがない。きょろきょろと見回していると、湯沢が線路をじっと見つめていた。  俺も線路を見てみたが、不思議な点はない。 「印貢。西新町に行ってもいいかな?」  西新町は隣の駅であるが、逆方向になる。 「いいけど、どうしたの?」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加