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「まあね、でも、その彼女がさ。服を買ってくるというバイトをしたそうよ」
下着とか服で、可愛い物を買ってくるというバイトをしたのだそうだ。どこの変人親父なのだと断ろうと思ったが、買い物をするだけでバイト料金が貰え、しかも、そのショップのポイントが貰えたので引き受けたらしい。
「……やっぱり、四区か……」
「そうね。四区だね。親父に許可を貰った。潰してくる」
犯罪ばかりの四区であるが、誘拐された少女が一般人であった。四区は、一般人には手を出さないことになっている。ルールを破ったチームには制裁を与えてもいい。
四区は四区の中で完結するからこそ、犯罪を自分達で裁くのだ。
「藤原が動くのならば、それでも、いいか……」
俺は眠くなってしまっていた。
「弘武、会いたいよ」
俺の呼び方が、弘武となったので、彼女が帰ったらしい。
「……彼女を家の玄関までは送れよ」
「ちゃんとタクシーを呼んで、金払ってチップやって頼んできました」
そういうマメさが、藤原が女性に好かれる理由らしい。
「弘武、キスしたいよ。触れたい」
藤原が駄々っ子のようになってきたので、俺は構わず電話を切り、そのまま電源も切った。
翌朝、俺は湯沢に起こされていた。湯沢は何度も俺の携帯電話に電話を掛けたが繋がらず、心配で見に来たらしい。
「湯沢、買い物、行こう」
「こんな時にですか?」
こんな時だからこそ、家に籠りたくない。
「俺、家に一人でいたくない」
正直に言うと、湯沢が何度も頷いていた。
「そうですね。俺も、家に一人でいたくありません」
湯沢が着替えてきたので、俺も着替えてみた。佳親がいなかったので、季子に行き先を告げておく。
「行ってらっしゃい、弘武君」
希子が俺を見送ってくれた。
俺の家は、参道の終わり付近にある。家の先には神社があるが、神社の参道の両側を天神の森としていて店がない。
表参道は八百メートル程続き、その先に天神の森駅がある。木造の駅で、大きくはないが、人の出入りは激しい。
湯沢と一緒に駅に入ると、電車を待った。俺は、この駅を数回しか使用したことがない。きょろきょろと見回していると、湯沢が線路をじっと見つめていた。
俺も線路を見てみたが、不思議な点はない。
「印貢。西新町に行ってもいいかな?」
西新町は隣の駅であるが、逆方向になる。
「いいけど、どうしたの?」
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