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学園刑事物語 天神四区 四
『夜明け』
第一章 消える景色
高校の教室で、ベランダから下を見ていると、幾人もの知らない職員がダンボール箱を持って学校に入ってきていた。腕に腕章を付けているので、同じ関係者なのであろう。
「何かあるのかな?」
「捜査か、取り締まりとか」
それは違うであろう。いつものように、相澤は眠っている。
「試験会場だってよ」
通りすがりのクラスメートが教えてくれた。
その後、担任がやってきて、この教室も何かの資格試験会場になるということで、机の中を空にしておくようにとの指示があった。皆、荷物はロッカーに入れて帰るのだが、そこで、部活はどうなるのか聞くのを忘れていた。
グランドは関係ないので、練習を続けていいのだろう。隣のクラスで同じサッカー部の湯沢に声を掛けようとすると、その前に、同じクラスの有明に捕まっていた。
「試験中は、サッカー部の練習は中止だってさ。車の出入りが多くて、一部グランドも駐車場にするらしい」
グランドに車を入れないで欲しいが、公立高校の惨めさで、今ある物で済ませるのだ。後でグランドの整備がどれだけ大変かなど、考えてもくれない。
俺、印貢 弘武(おしずみ ひろむ)は公立高校の一年生であった。季節を外して入部したサッカー部では雑用扱いされている。
でも、明日も練習は休みなのか。ゆっくり洗濯をして、いつもとは違うスポーツ用品店に行きたい。
「印貢、休みはどうするの?」
「たまには港駅の方の、巨大なスポーツ用品店に行こうかな」
この土地は港に面しているせいか、港と名の付く駅が多い。その中でも、一番巨大な駅が港駅であった。いつもは天神一区駅前のショッピングセンターで買い物を済ませるが、この港駅のスポーツ用品店の品数は、通常店の比ではない。
「そうか……印貢の家って、天神の森駅の方だもんな。港駅に簡単に行けるよな」
路線というものがあって、俺の家の天神の森駅から、高校のある天神一区駅までは、乗り換え二回を要する。しかも、高校とは逆側にある乗り換え駅までが長いのだ。電車に乗るよりも、自転車の方が到着は早い。自転車通学なので、天神区には駅がないと思われてしまうが、ちゃんと歩ける距離に駅はある。
しかも、天神の森駅からは、港駅へは一本で行ける。
「湯沢、明日練習休みだから、港駅のスポーツ用品店に行かないか?」
湯沢は俺の家の隣であった。
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