『夜明け』

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 西新町に湯沢の家の漬物工場がある。 「兄貴と話がしたくてさ」  昨日は仕事が忙しく、兄とは話せなかったのだそうだ。 「分かった」  逆方向の電車はすぐに来たので乗り込むと、西新町に向かった。  西新町は、工場が多く並ぶ地区で、港も近いので輸出入の関係も多かった。駅から降りて暫く歩くと、湯沢の漬物工場が見えてきた。  本当に工場で、漬物というよりも食品工場であった。そこで、湯沢が兄を呼んでもらうと、兄は走ってやってきた。 「どうした?何かあったか?」  湯沢が、深刻な話を兄としているので、俺は工場の内部を見学させてもらった。 「凄いですね。俺、本店しか見た事なかったので、手で漬けていると思っていました」  案内してくれた職員は、本店でも働いていたとのことで、大笑いしていた。 「車がね、本店は出入りが大変でしょう。ここは、その点便利だからね」  近くに高速道路もあり、確かに便利であった。  工場見学が終わり事務所に戻ると、テレビでニュースが流れていた。この付近で脱線事故があったらしい。よくよく聞いてみると、乗ろうとしていた電車は脱線し、怪我人を多数出していた。俺たちが、ここに来る予定に変更しなければ、脱線事故に巻き込まれていたことになる。 「復旧しないか……買い物は無理か」 「あ、いいよ。丁度、そっちの店舗に配達だったからね。乗せてゆくよ」  でも、帰りまでに普及するかが分からない。 「でも、帰りが……」 「大丈夫。夕方まで復旧しなかったら、乗せて帰るよ」  配達の後に、商談に行くのだそうだ。予定では四時まで商談が入っていた。 「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます」  礼を言うと、トラックに載せて貰った。 「印貢君って、隣の子だよね。大きくなったね」  大きくなったと言われても、三年しか住んでいない。  トラックに乗るという事は、俺には珍しく、あれこれ眺めてしまった。 「まあ、俺も天狗なんだけどね。佳親さんよりも下の世代で、全然、弱い時だねえ」  湯沢も兄弟で天狗であったのか。  高速道路で移動し、三十分程度で到着していた。俺たちが店の前で降りると、車はすぐに去って行った。  この巨大なスポーツ用品店は、幾つもの連なる店舗の一角にある。一号館。二号館と続き、それぞれに、特性を持っていた。俺達は三号館に向かう。
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