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「そうだね。俺も、あれこれ買いたかったし、いいよ」
俺が一人で買い物に行くと言うと、保護者である佳親(よしちか)が許可を出さない。湯沢が一緒に行くと言えば、許可も出るだろう。
「ねえ、そこで、どうして俺を誘わないの?」
有明の家は、路線が違う。港駅まで来てくれと言ったら、ちょっとした旅行になってしまう。
「遠いから」
その日も準備のためと言う理由で、グランドに入る事ができなかった。
「湯沢、帰ろう」
練習しないで帰りとなったが、少し気になって、私立高校の練習を見に行ってしまった。徒歩圏内にある私立高校のサッカー部は、全国優勝を狙える強豪であった。
私立は一貫校となっていて、大学生も練習に混じる。金網超しに見ていると、一人が俺の方を向いた。
「印貢、練習はどうした?」
「倉吉先輩。俺たちの高校は、資格試験の準備中とかでグランドに入れません。もう帰りです」
倉吉は走って来ると、金網超しに俺の腕を掴んだ。
「一緒に練習していけ」
金網超しに腕を掴まれても、通り抜ける事はできない。
「他校が練習に混じったらまずいでしょう」
腕を振り切って逃げようとすると、倉吉に睨まれていた。
「来い!今、征響を呼んでやるから」
征響が来ると、更に話がややこしくなる。俺は、ただ私立の練習はどうなのか見たかっただけだ。体験しようとも思っていなかった。
「ここ、部外者立ち入り禁止でしょう」
口論しているのも目立つ。グランドで幾人かが、こちらを見て何か話していた。
「だから許可は取ってやるから」
倉吉も引かない性格なのだとは知っている。
俺は諦めて、グランドへの入口を捜した。
「フェンス越えて来い」
倉吉は簡単に言うが、このフェンスはニメートルはある。
「……はい」
路上でジャージに着替えてしまうと、フェンスを飛び越えてみた。
「お、やるねえ」
倉吉は楽しそうに俺を待っていた。巻き添えをくって湯沢も、フェンスを乗り越えてグランドに入った。
「征響の弟だよ、これ」
だいたいのメンバーは、試合観戦の時に俺を見て知っていた。
「サッカー始めたばかりで補欠にもなっていないけどさ、この運動神経は惜しいだろ」
俺が、フェンスを越えた事を言っているのだろうか。
「印貢、来い!」
でも、倉吉のパスは受けやすい。こんな風に俺も、正確にパスをしてみたい。すると、倉吉は手本のように俺の前で色々な技を披露してくれた。
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