『夜明け』

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「よし、印貢、やってみろ」  一回見ただけで真似ろというのか。そう思いつつも、基礎は倉吉に日々鍛えられているので、どうにかはなる。 「まあ、だいたいOK。じゃ、グランドに行くぞ」  湯沢は、基本がしっかりしていて、もうレギュラーに近い。俺とは比べものにならないくらいに、サッカーが上手い。 「湯沢、印貢にパス」  正面に征響が立っていた。征響が本気で、ボールを奪いに来るので、ボールを上に上げると膝で軽く蹴り前に進めた。すると、征響は俺の前に塞がり体当たりしてくる。 「湯沢!」  俺はボールを上げると、オーバーヘッドで湯沢にパスをし、征響を切り抜けてからパスで返して貰った。 「……動体視力もいいうえに、グランド全体が見えている」  でも、サッカーが下手であった。 「弘武、しっかり練習しろ。どうも、弘武は練習に集中力がないからな」  征響は、サッカーは練習と意地だという。  俺の集中力の無さは知っている。だから、周囲の動きを把握はできるのだが、まだボールの動きを読めてはいない。 「征響、自分達の練習は大丈夫なの?」 「今から練習だよ。弘武、家に帰ったら倉吉が教えてくれたことをマスターしておけ」  征響が部員に号令をかけ始めたので、俺は帰る事にした。走ると、フェンスを飛び越えて自転車の前に着地する。ファンスは高いが、手を使えば容易に飛び越えられる。 「湯沢、帰ろう」  今度こそ、きっちり帰ろう。 「分かった」  湯沢もフェンスを飛び越えてきた。  私立の一貫校は、天神の森駅までバスを運行している。路線が異なり通えない生徒が多いので、最寄りの駅まで巡回バスを走らせているのだ。そのバスには、公立高校の俺達は乗る事ができない。  俺は、自転車で天神三区を抜け、四区を抜けて天神区に帰る。天神区は、天神の森と呼ばれる山の上の地区で、有名な寺社が連立している。参道を下ると、天神の森駅となっていた。  俺の家は、参道にある古い漢方薬局であった。湯沢はその隣の、老舗の漬物店の息子だった。  漢方薬局は、後ろに三階建ての倉庫を持ち、そこに工場のようなものも併設していた。漢方の簡単な調合もここでしている。  湯沢の家は、この参道で漬物をするのは止め販売だけにし、工場は別の土地に建てていた。この参道は、参拝客が多く、運搬が大変なのだ。 「湯沢、兄貴は工場の方か?両親は駅前店だろ?一人なら、俺の家の庭でサッカーやろうぜ」
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