『夜明け』

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 俺は、倉庫の三階に住んでいる。ほぼ一人暮らしであるので、最近まで気ままに生活していた。でも、サッカーをするようになって、随分と母屋に行くようになった。  母屋は、生活道路を隔てて向かい側になる。 「いいよ。練習しよう」  真面目な湯川は、練習も勉強も手を抜くことがない。  母屋の庭で練習していると、玄関に誰かが訪ねてきていた。 「季子さん、お客さんですよ」  玄関のチャイムは、漢方薬局の方でも分かるようになっている。でも、誰も来ないので、俺が玄関に出てみた。 「どなたですか?」  玄関を開くと、参道の旅館で働く奥さんが来ていた。やはり、季子を呼んだ方がいいのかと、玄関の電話を手に取ると、湯川が来て丁寧に挨拶していた。 「退院されたのですか?」  退院?後ろの少年を見ると、前にこの庭で撃たれた中学生であった。 「退院したのか。おめでとう!」  電話を置いて、俺は中学生と握手していた。  この庭で狙撃された時は、もう心臓の鼓動が止まりそうであった。それが、今、生きて目の前に立っている。 「退院はしたのですけど、もう天狗はできません。心臓を掠っていたし、肺を貫通していましたので、無理ができません」  本来ならば、久芳を恨んでもいいのだろうが、少年は明るい笑顔であった。 「生きていられて、本当に嬉しいです。征響さんに電話をしたら、運動はできなくても、一緒に勉強をしようと言われました。勉強をしに、又、ここに来るつもりです」  怪我で仲間を失うということは、本当に悲しい。 「……サッカー、出来ないのか?」 「はい。印貢先輩、俺の分までサッカーも頑張ってください。俺、すごく楽しかった」  そこで、泣かないで欲しい。俺もつられて、泣いてしまった。 「……楽しかった?」 「はい。久芳先輩も、秋里先輩も、倉吉先輩も強くてかっこよくて、でも俺を仲間だと言ってくれて本当に嬉しかった」  仲間に認められるということが、どんなに嬉しい事なのか、俺も知っている。それを失う辛さも、俺は知っている。  犯人を殺してやりたい。サッカーをすることや、天狗としての仲間を失った少年に、かける言葉がない。 「印貢先輩、泣かないでください。俺もつられますので」  俺がつられて泣いたのだ。 「では、改めて挨拶に来ます」  佳親も出かけているようであった。季子は、店に客が来ていて動けないらしい。
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