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中学生が親に連れられて帰って行ったが、その後ろ姿で又俺は泣いてしまった。
「……印貢、涙脆いよな」
湯沢は無表情で、俺の顔をタオルで拭いていた。しかも、犬の頭でも拭くような無骨さであった。
「湯沢……」
もういいよと言おうとして、又、思い出して泣けてきた。俺は、仲間を失うということに弱い。
「湯沢、何があった!」
玄関で顔を拭いていたので、遠くからでも見えていたのか、征響の声が遠くから聞こえてきた。どこに征響がいるのかと、道を見ると、はるか遠くから征響が走って来ていた。
参道の手前の方に、秋里の家の喫茶店がある。倉吉の家は中ほどにあるので、征響は一人になっていた。
「どうしたの?征響?」
俺がきょとんとしていると、征響まで俺の顔をタオルで拭いていた。そうか、俺が泣いていたのが、あんなに遠くから見えたのか。
「撃たれた中学生が……」
「須賀か……知っているよ。俺にも連絡が入って今から行くところだよ」
征響たちは、連絡を受けて、練習を早く切り上げてきたという。
「残念で悔しいよ……」
征響は、部屋に鞄を置くと又玄関にやってきた。
「弘武も制服に着替えろ。湯沢も着替えて来い、一緒に行こう。佳親はもう行っているらしい」
制服に着替えるのか。でも、久芳の母屋で狙撃されてしまったのだ、正式な服装で挨拶したほうがいい。
「はい」
しかし、途中で倉吉と秋里と合流して、行った先には黒い提灯が下がっていた。
「……これ、何?」
「弘武?何を聞いていた?須賀は、一時間くらい前に息を引き取った。病院から家に帰って来るというから、通夜の前に、会っておこうと話してここに来た」
では、俺は誰と会っていたのだ。湯沢を見ると、同じように驚いていた。
「あの、久芳先輩。俺たち、先ほど、本人に会いましたよ」
良かった、俺の見間違いではない。
「そうか。息を引き取る前に、弘武に会いたいと言ったそうだ。どうしてと聞くと、弘武を転ばせてゴメンと謝りたいと言った」
俺が、久芳家に引き取られて、最後の征響チームの天狗になった。皆に可愛がられる俺を妬ましく思いながらも、その生い立ちの悲惨さから恨めず、いつも見ていたという。
「俺は、本当の仲間になりたかった……」
俺は、本当の仲間になりたかった。今ならば、正直に言える。
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