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病院から戻ってきた須賀は、眠るように穏やかであった。意識が戻ったのは数時間で、後は眠ったまま弱っていった。
俺は、見舞いに行かなかった。いいや、怖くて、行けなかった。
布団で眠っているように横たわる須賀は、確かに先ほど玄関で会った少年であった。あんなに鮮明に見えていて、かつ、会話までしたというのに、既に死んでしまっていたのか。
「お見舞いは、本人の希望で全てお断りしていました。本人が、絶対に治すから、誰にもこんな姿は見せたくないと言いました」
見舞いを断っていたとは知らなかった。だから、皆、状況が掴めていなかったのか。
「……印貢さんとサッカーしたら、すごく下手でからかったらバチが当たったと。でも、印貢さんと一緒にサッカーして、強くするから、大丈夫。印貢さんに会いたいと」
俺に会いたかったならば、もっと早く言って欲しかった。須賀の母親から、手紙というよりもメモを渡されてしまった。
俺は須賀のメモを開いて、慌てて閉じると、ポケットにしまった。何だか、見てはいけないものを見てしまった。
このメモは、母親は見たのだろうか。
でも、須賀の性格は、見た目はおどけていたが根が真面目であった。すると、この冒頭は、他の人が読まないようにとの威嚇であるのかもしれない。
トイレを借りると、メモを再び開いてみた。
『好きです。印貢先輩』
他に書いてある文字が無かった。でも、電灯に透かしてみると、書いて消した文字があった。
『俺は、久芳先輩の身代わりになったのではありません。狙撃は俺を狙っていました。その誤りで、捜査が間違う事が無いように願います。俺が狙われたのは、口封じです』
メモはそこで終わっていた。何の口封じであったのだ。
俺はトイレから出ると、メモを再びポケットに入れた。
須賀の遺体の前で正座すると、深く頭を下げた。ちゃんと別れをしなくてはいけないが、俺たちは互いが知り合う前に別れてしまった気がする。でも、須賀の見立ての通りで、俺は事件となると首を突っ込む性質だ。
「須賀、無念は分かった。須賀は、天狗だった。俺たちは仲間になる筈だったな」
事件を追いかけた須賀、正義はどこにあるのか見極めていたのだろう。
須賀が何を調べていたのかは、向こうで俺達を見て観察している中学生に聞いてみよう。
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