『夜明け』

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 メモを見る限り、須賀は実の親でさえ、信用していなかった。巻き込みたくなかったのかもしれないが、どうにも、胡散臭い。死にそうな息子の願いを叶えなかった母親。俺は近所にいるのだから、会いたいと言うのならば、会わせればよかったのだ。  他に見舞い客も断っていたと言うが、それも、須賀を孤立させるためなのではないかと、疑ってしまう。  久芳家に関わりたくないのかもと、気を使っていたが、俺も会いに行けば良かった。  状況から考えると、ここにいる中学生ではない。須賀の仲間は、きっと、ここには来ていない。ここは、敵の中なのかもしれない。  天神区の学生は少ない。今、須賀に会いにきている者で全てのような気もするが、他にもいるのだろうか。  征響チームの天狗が集まって来ると、改めて須賀を見つめる。幾人かが、須賀の死に不審を感じていた。 「須賀の持っていた、端末がないのです」  一人の中学生が、征響に呟いていた。その少年は須賀に、自分に何かあったら端末を解析して欲しいと頼まれていたという。  須賀は用心深かった。俺宛てのメモでも、用心深さが伺える。ならば、端末は一台ではない。分かるように隠した端末と、見つからないように隠した端末がある。そして、周囲には一台しか持っていないように見せかける。 「本当に須賀に頼まれていた?」  俺も用心深くなってしまった。 「…………印貢先輩には、解析のプロ級もプロも付いているのかもしれません、でも、須賀は一人でした……天狗に入れて、本当に須賀は喜んでいた。これで本当の事が言えるねと……」  どう信用したら良いのか分からない。俺も、基準を決めて言っていなかった。 「征響、後で相談する」 「まあ、言わんとすることは分かった」  須賀は毎日のように、久芳家に来ていた。  俺宛てのメモを残した。ならば、隠したのは俺の部屋なのであろう。俺と須賀には接点が少なく、俺の部屋に隠したとは誰も考えない。だから穴場だ。 第二章 消える景色 二  部屋に戻ると、端末を捜す前に寝転んで天井を見た。俺の部屋は、色々な人が出入りする。  希子も洗濯をするために入ってくる。時には、季子は掃除もしてしまう。  端末も、中身さえあればいいのに、何故、端末と言ったのであろうか。 『好きです』  何度か消した形跡があり、見ようによっては女子ですと読めてしまう。 「女子です?」
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