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俺の部屋には、中学卒業の時に、女子バスケ部から貰った時計があった。
貰ったのは大きな振り子時計で、置き場に困って棚の隅に飾られている。寄せ書きまでされていて、天辺に、『バスケ部女子です』から始まり様々な言葉が書かれていた。
時計を取って底を見たが何も無い。中を見たが何もない気がした。
「基板?」
こんな普通の時計に、何故、電子基板が入っているのだ。
「……これか」
基板でなくても、記憶媒体で汎用品の何かで良かったのではないのか。でも、基板であったので、気付かれなかったのかもしれない。
「でも、俺、電気が苦手だ」
やはり、野中に頼むしかないか。毎回、野中にはあれこれ頼んでしまっている。
野中に電話を掛けると、窓の外に征響が立っていた。
「征響?」
征響が窓を叩いている。俺がドアの鍵を開けると、征響は入ってきて畳に腰をかけた。俺は野中に用件を言って電話を切ると、征響の前に歩み寄った。
野中に解析の代金を聞くと、ホーに請求するからと断られた。ホーは野中に、俺から一切の金品を受け取るなと言っているらしい。
ホーに電話をしたかったが、征響は非常に不機嫌で、足が床を叩いていた。
「俺は須賀が撃たれたのに、死亡したのに、サッカーをしていた」
それは、天狗の皆も同じで、普通の生活を続けていた。須賀は助かると思っていたし、犯人も捕まえると思っていた。
俺は征響の横に座り込んだ。
「須賀は俺に会いに来ました。楽しかったと言って去りました」
思い出すと又泣けてくる。ハンカチを捜したが無く、キッチンの布きんで顔を拭く。
須賀が撃たれたのが、遠い昔のような気もするが、昨日のような気もする。手に須賀の血の温もりがまだ残ってもいる。
殺し合いが普通になり過ぎてしまっていた。でも、一人の死は、こんなにも悲しい。
征響は俺を見ずに、俺の頭をぐりぐりと撫ぜていた。征響は加減が分からないので、いつも、痛いくらいに構われてしまう。
「須賀が何を探っていたのか、分かったら俺にも報告しろ。いいな」
征響は俺に念を押して去って行った。
早く野中に基板を渡したいが、野中の家は港の倉庫群の方でここからは離れている。俺は、相澤に電話を掛けてみた。
相澤は高校で隣の席に座っているのだが、潜入している刑事で、本当は高校生ではない。
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