第一章 消える景色

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「では、改めて挨拶に来ます」  佳親も出かけているようであった。 季子は、店に客が来ていて動けないらしい。  中学生が親に連れられて帰って行ったが、その後ろ姿で又俺は泣いてしまった。 「……印貢、涙脆いよな」  湯沢は無表情で、俺の顔をタオルで拭いていた。 しかも、犬の頭でも拭くような無骨さであった。 「湯沢……」  もういいよと言おうとして、又、思い出して泣けてきた。 俺は、仲間を失うということに弱い。 「湯沢、何があった!」  玄関で顔を拭いていたので、遠くからでも見えていたのか、 征響の声が遠くから聞こえてきた。 どこに征響がいるのかと、道を見ると、はるか遠くから征響が走って来ていた。  参道の手前の方に、秋里の家の喫茶店がある。 倉吉の家は中ほどにあるので、征響は一人になっていた。
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