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「え?南北テレビと対決?」
目を丸めたディレクターの磯貝要一に、プロディーサーは「そっ」と軽く肯いて見せてから、
「ほら、あちらさんの朝の情報番組にさ、看板コーナーがあるだろ。イケメンに料理を作らせるやつ」
「ああ、コモの台所ですね。菰田とか言う、最近ドラマにも映画にも出ない役者だ」
「そう。それに挑戦状を出すんだよ。どっちが美味い料理を作れるかってね」
意気込むプロディーサーとは対照的に、磯貝は冷めた表情を浮かべた。
「またそんな面倒くさいことを言い出して……」
「まあそう言うなよ。これも来年うちが開局30周年を迎えるためのイベントの一つなんだから。ちょうど向こうも40周年だし。コラボだよ、コラボ」
「コラボって、南北テレビの了解はとってるんですか?」
「いや、まだだ」
その返答に磯貝はこれ見よがしにため息をついた。
「大丈夫だって。テレビ離れが叫ばれる昨今、これからは局同士が協力していく時代なんだから。絶対あちらさんも乗ってくるって」
「そうですかねぇ」
「そうなんだよ。だからお前に先に話をしたんじゃないか。南北テレビよりも先に、いい食材を探すんだよ」
「はぁ……」と気のない返事の磯貝の肩を、プロデューサーは気合を入れるように叩いた。
「頼んだぞ。30周年で特別予算も出るから金に糸目はつけない。あっと驚く食材を見つけろよ」
翌日。
「ねぇ。何かいいネタあった?」
チーフADの栗田恵子の言葉に、パソコンの画面を睨んだままの小杉隆二は小さく首を振った。
「あきません。どっかで紹介されたもんばっかりや」
「そうよね。料理番組にグルメレポート、これだけ散々やりつくしてたら、そう簡単に新しいネタなんか見つからないわよね」
「そこをなんとかするのがお前たちの仕事だろう」
不意に現れたディレクターに、二人は背筋を伸ばした。
「そんなこと言ったって磯貝さん、ないものは……」
栗田が弁明するさなか、小杉が「あっ」と小さな声を漏らした。
「どうした?」
磯貝の問いかけにチラリと視線を上げてから、
「検索してたら個人のブログがヒットしたんですけど、ある日の書き込みにこんなタイトルがつけてあるんです。『極上の美味』って」
「へぇ。で、その正体はなにかしら?」
栗田は椅子を滑らせ、小杉と並んで画面を覗き込んだ。
「それは、理由があってここには書けない……やて」
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