カメラが見たものは…

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「それは……」と言いよどむ彼は答えを探すかのように視線を激しく彷徨わせる。  予想外の反応に戸惑いの色を見せた彼女は、次にどう対応したものかを逡巡していた。  微妙な空気が流れる二人を救ったのはカウベルの音だった。入り口のドアが開き、一人の男が入ってきた。  その姿を見るなり磯貝が立ち上がり、「こっちだ」と手を挙げた。 「なるほど、話はわかったよ」  磯貝の説明を聞き終えた小鳥遊はコーヒーを一口すすってから、 「で、俺が食べた極上の美味の正体を教えろと」 「そう。もしそれがまだ世間に知られていないものなら、ぜひとも協力してもらいたいんだ」 「まあ旧友のよしみで協力にはやぶさかでないよ。でも、テレビで放送できるのかなぁ」  苦笑する小鳥遊に磯貝は不安げな目を向ける。 「おい、なんだよ。やばいものなのか?」 「んー……」と彼は難しい顔で目を閉じ、黙りこくった。  首を伸ばして返答を待っていた磯貝の携帯が震える。それを見て彼は一つ舌打ちをしてから、 「プロデューサーだ。悪い。ちょっと失礼。ゆっくり考えていてくれ」  言い残して席を立った。カウベルの音と共に彼の姿は外に消えた。  それを目で追っていた栗田は目の前の男に視線を戻した。いつの間にか相手は彼女の顔をじっと見つめていた。 「あの、なにか?」  それには応じず、そのまま凝視していた小鳥遊は大真面目な顔で口を開いた。 「君、磯貝と付き合ってるのか?」  その瞬間、彼女は顔を引きつらせた。「え?」ととぼけるものの、浮かべた笑みはぎこちないものだった。 「やっぱりな。二人並んだ姿を見ればすぐにわかったよ」 「いやいや。付き合ってるなんて言ってませんよ」 「じゃあ、君をデートに誘ってもいいわけだ」 「それは困ります」 「彼氏がいるの?」 「ええ」 「相手は……?」  ニヤニヤと笑う小鳥遊の顔から苦々しげに視線を逸らした栗田は、 「そうです。ここだけの話ですよ」  念を押すように吐き捨てた。 「わかってるよ。しかしあいつのタイプは大学の頃から変わらんな」  栗田の眉がピクリと動いた。彼女にとって大学時代の磯貝がどんな女と付き合っていたのか気になるところだ。しかしそれよりも、大学というキーワードで思い出した先ほどの疑問……磯貝が顔色を変えた疑問のほうが、今は知るべきことのように思えた。
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