カメラが見たものは…

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「あの。小鳥遊さんはうちの磯貝と同じ大学の山岳部だったんですよね?」 「そうだけど。なにか?」 「この際だからはっきり言いますけど、彼と付き合ってもう二年なんです」 「はっきり言ったねぇ」  茶化す小鳥遊を栗田は「真面目に!」と睨む。 「でも今まで一言もそんなこと口にしなかったんですよね。今日初めて聞かされたんです。それで、理由を聞いたら、急に口をつぐんで、変な空気になっちゃって……」 「なるほど」 「小鳥遊さんのプロフィールにはまだ山に登ってるようなことが書かれていました」 「うん。たまに登ってるよ」 「じゃあどうして磯貝はやめちゃったんでしょう?」 「そりゃ簡単だ。遭難したからだよ」 「え?」と彼女は目を瞬かせた。 「と言ってもあいつが遭難したわけじゃない」 「どういうこと?」  眉根を寄せる栗田に、小鳥遊は遠い眼差しを見せる。 「大学4年にあいつは主将になった。そして卒業を迎えるにあたり、記念にヒマラヤに行こうという計画を立ち上げた。ところが、直前になって磯貝はインフルエンザにかかってね。あいつ抜きで山を登ることになったんだが、運悪く途中で悪天候に見舞われて遭難。登頂は失敗に終わった。だからあいつは、自分がいなかったがためにそんな結果になってしまった……なんて、たぶん勝手な責任感に苛まれているんだろうな」 「そんなことが……」  栗田は沈痛な表情で俯いてから、すぐに顔を上げた。 「でも小鳥遊さんもこうして元気なんだし、みんな無事だったんだからそれほど気にしなくてもいいように思いますけどね」 「誰が言った?」 「え?」 「みんな無事だったって、誰が言った?」  小鳥遊の言葉は急に冷気を纏ったかのようにきつかった。あまりの温度差に身震いが出そうになった栗田は無意識のうちに腕を抱えていた。 「違うんですか?」と恐る恐る訊ねると、彼は小さくため息をついた。 「生きて帰ったのは、俺一人。あとの15人は……」  カウベルの音が鳴った。 「すまない」と磯貝が席に戻ってきた。 「南北テレビとの対決の件、あちらさんも受けたってさ。うちから例の番組に殴り込みをかけるって形になる……」  そこまで言って彼は二人の表情がぎこちないことに気づいた。 「どうした。何かあったのか?」  その視線を受けて栗田が答えようとするよりも早く、小鳥遊が口を開いた。
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