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振り返ると、そこには見知らぬスーツ姿の男性が一人佇んでいた。
年の頃は50代後半、といったところだろう。
渋めのいい男――年上好きには堪らないはずだ。かくゆう私も年上好きである。
「作田奈々さんですね?」
「ええ、そうですけど……」
「申し遅れました、私はこういうものです」
男性は礼儀正しく頭を下げると、一枚の名刺を差し出してきた。
そこにはミュラー法律事務所・所長、川崎健介と明記されている。
ミュラー法律事務所って、たしか外資の大手法律事務所じゃなかったっけ……そこの所長さんが、どうして私に名刺を? っていうかなんで私の名前を知ってるわけ?
当然の疑問が頭に浮かんでくる。
「あのう、私になにか用でしょうか?」
「ええ。大事なお話がございますので、少しお時間をとって頂けないでしょうか」
「ええと、大事な話とうのうは?」
「ここではなんですので食事をしながら、というのはどうでしょう?」
「いきなりそんなこといわれても……あのう、どういったお話なんでしょか?」
「いま貴女と一緒に住んでいる少年の話しです」
川崎と名乗る男は、私の耳元でささやいた。
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