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第5章 女の砂時計(続き)
「俺、ずっと迷ってたんだ。
この事、美沙ちゃんに知らせるべきかどうかって。
だけど、どうにも気になる事があってさ」
「気なる事?」
「うん。実は、先々週だったかな。
俺、コピー取りに行った時に彼女と会ってさ」
だが、その時の彼女はいつもと変わりなく元気で、
彼も、ふと思いついたように、私と偶然再会したことを口にしたという。
「そしたら彼女、すごく懐かしそうな顔して『今度、私も会いたいなぁ』
なんて言ってね。それが、ひどく印象深かったっていうか。
なんか俺には、単なる社交辞令とかじゃなくて、その、なんとなく彼女、
本当に美沙ちゃんに会いたかったんじゃないかって思えてさ。
なんていうか、とっても会いたかったんじゃないかってね……」
だが、それから何かと仕事に追われ、その事は記憶の隅に追いやられていた。
そんな風に言った彼の沈んだ声が、ポツンと呟く。
「実は彼女、独身だったんだよ」
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