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夕方の空に薄く、白い月が浮かぶ。
微かな歌声が紡ぐ旋律が、暮れゆく空気に溶けていく。
まるで月が歌っているみたいな、ひそやかな歌。
歌声はあの月のように澄んで、どこか切なく切実だった。
聴こえているよ。
声には出さずに春は言う。
聴かせてよ。その歌声を、いつまでだって。
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一九九九年九月、ノストラなんちゃらの言った恐怖の大王はやって来ないまま、あっさりと夏は過ぎ二学期がやってきた。
海に面し山に囲まれた、休日は観光客で賑わう小さな町。ここに住む遠山家――特にこれといって変わったところのないこの一族にはしかし、ある秘密があった。
この家に生まれた人間は皆、超能力めいたちょっとした力を持っているのだ。例えば長女の昌子は少しの時間空中を飛ぶことができる。もっとも、全盛期でも長くて十秒程度だったが、とにかくそういった小さな超能力らしきものを持っているのである。
市内の県立高校に通う昌子の息子・春の場合、それは「ほんの少しの未来が見える」ことだった。
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