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男がアオの前にしゃがみ込んだ。アオは両手をブンブン振り回す。抵抗できるのは自由な腕だけだ。
「来んな! あっちへ行け!」
「威勢がいいのね。ワタシはキミをどこかに連れて行こうなんて気は、さらさらないんだけど。さてどうしましょう、完全に嫌われちゃったじゃない。あんたのせいだからね」
男はまた独り言を呟いた。
いったい誰のせいだと言うのだ。突然目の前に現れたお前のせいじゃないか。
また稲光がびかびかと光った。どどーんと鳴り響く雷鳴。
「もうそろそろ降り出すわね。さてキミ」
「キミじゃない」
「元気がいいわ。じゃあお名前は?」
「おれはアオだ!」
「そう、アオ。その、ワタシを信用できないかも知れないけど、もうすぐ雨が降り始めるわ。後ろの荷物は濡らしちゃいけないんでしょ?」
「うっ……」
どうしてそれを……。
「雨をしのぐ場所が必要だわ。どこかに雨宿りできそうな場所はないかしら」
アオは首を振った。
自分に聞かれているものだとばかり思ったが、男は肩の生き物に向かって(向かってとしか言いようがない)話しかけていた。
額にぽつりと雨粒が当たった。
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