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アオは午後から薪を取りに山に入っていた。
朝夕の冷え込みはまだ緩まない。薪を切らしたら囲炉裏の火が絶えてしまう。ばっちゃは体調が悪くて寝込んでいる。じっちゃまで風邪をひいたら大変だ。
もう少し、もう少しと拾っていて、雲行きが怪しくなってきたことに気付かなかった。遠くに響く雷の音にふと顔を上げると、空はすっかり暗い雲に覆われていた。
「いっけね、せっかく集めた薪が濡れちまう」
よいしょ、と薪の束を背負い急いで山を降りようと立ち上がる。
いきなり空がびかびかと光り、天が割れるような大きな音が鳴った。雷はすぐ側だ。どこに落ちるかわからない。
とにかく急いで下りなければ。
薪を背負い直し走り出そうとしたその時。
ひと際強い閃光と直後の轟音。バリバリと木の裂ける音。
雷が間近に落ちた。走り出そうとしていた体のバランスが崩れる。
「うへぇ!」
尻餅をついたアオの前に、突如として男は現れたのだった。
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