奇食

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「そうだなあ、でも生きるって事は他の命を食う事だ。罪深いとも思うが、そうしなければ生きていけない命の営みを罪だとは言えないな」 自分らしくない考えの言葉が出る。 「植物ならば、罪は軽いのでしょうか。植物は食物連鎖の底辺に位置し、食べられるだけの存在です」 「どうかな。オレの生まれた国の宗教じゃ、オレ達は色々な生命に生まれ変わりながら生きていて、今たまたま人に産まれているってのがある。輪廻転生って考えだが、生まれ変わりつつ罪をあがない徳を積んでいって何時かは悟れるって考えだ。ただ、生き物に植物は含まれない。けどな、オレは植物も罪深いと思うぜ。動かないだけで、各種の化学成分を自分で作り上げて、周りの植物を枯らして自分だけが育ち易くなる様にしたりするんだからな」 オレの反論に、通訳は暫くの間黙った。 少し意地悪を言い過ぎたかと言葉を繋げる。 「生きる事が罪だと考えるのは人間くらいさ。命は廻る。食う事でな。ただその営みから人は少々外れてしまって、オレの生まれた国じゃ魚を描けって言われて切り身のパック詰めを描いたり、四本や六本脚の鶏を描く子供が出て来る始末さ。おまけにゲームの中みたいに人は何度も生き返れるって勘違いをしているしな。便利な世の中になって、在るべき知識がきっと何処かで歪んでしまったんだろう。そっちの方が罪だとオレは思う」
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