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めーちゃんとは、いつも馬が合わなくて、毎朝のやり取りはお約束だ。
「はっきりしねえなあ。そんなんじゃ、また勘違いされて、好きでもねえ女子に告白されちまうぜ?」
「ちょっと、もういいでしょ! さとくん困ってるじゃん! さっさと行きなさいよ!」
「おー、怖っ! 悟、行こうぜ!」
不意に隆が僕の手を握った。
「あっ……!」
そのまま昇降口まで、引きずられるように引っ張られていく。
「ち、ちょっと、行くのはアンタだけでしょ! なんで、さとくんを巻き添えにするのよ!」
「はっはっは、悔しかったら奪い返してみろ! お前の愛しの王子様をさあ! 勇ましいお姫様!」
「こ、このー! 待ちなさい!」
二人のいつものやり取りに巻き込まれ、下駄箱の前まで来た僕は、上履きに履き替えようとする。
だけど今日は、上履きを持つ手が微かに震えてしまう。
――強く握られたから……。
「ん? どうした悟? なんか顔が真っ赤だぜ? 俺、ちょっと強く引っ張り過ぎたかな?」
「えっ……いや。な、なんでもないよ。大丈夫だから……」
僕は誤魔化すように、さっさと上履きに履き替えると、急いで教室へ向かって歩いた。
*
『さとくん』の幼馴染。『めーちゃん』こと――私『桐野彩芽』は、最近のさとくんの挙動に妙な違和感と言うか、何かを隠しているような気配を感じている。
さとくんと私の出会いは、幼稚園の時だった。
同じ『さくら組』にいた『さとくん』は、大人しくて、でもとても綺麗な顔立ちをしていて、今と同じように女の子にモテモテだった。
だけどそのことが、同じ組の男の子達には面白くなかったようで、何かにつけて、さとくんをからかったり、ちょっかいを出すようになっていった。
ある日、さとくんがクレヨンでお絵描きをしていると、例のごとく、同じ組の男の子が、ちょっかいを出し始めた。
「さとるー、何描いてるんだよ。それ女の子の絵だろ?」
「え……? ちがうよ。これは……あの……」
「おーい、みんな、さとるが女の子の絵描いてるぞー」
その掛け声を聞いて、他の男の子達も集まってきた。
「ほんとだ。好きな子の絵だろー。おまえ誰が好きなんだよー」
「す、好きな子じゃないよ……」
「おまえモテるから、調子のってるんだろー?」
「ちがう……っあ!」
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