第1章

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 めーちゃんとは、いつも馬が合わなくて、毎朝のやり取りはお約束だ。 「はっきりしねえなあ。そんなんじゃ、また勘違いされて、好きでもねえ女子に告白されちまうぜ?」 「ちょっと、もういいでしょ! さとくん困ってるじゃん! さっさと行きなさいよ!」 「おー、怖っ! 悟、行こうぜ!」  不意に隆が僕の手を握った。 「あっ……!」  そのまま昇降口まで、引きずられるように引っ張られていく。 「ち、ちょっと、行くのはアンタだけでしょ! なんで、さとくんを巻き添えにするのよ!」 「はっはっは、悔しかったら奪い返してみろ! お前の愛しの王子様をさあ! 勇ましいお姫様!」 「こ、このー! 待ちなさい!」  二人のいつものやり取りに巻き込まれ、下駄箱の前まで来た僕は、上履きに履き替えようとする。  だけど今日は、上履きを持つ手が微かに震えてしまう。  ――強く握られたから……。 「ん? どうした悟? なんか顔が真っ赤だぜ? 俺、ちょっと強く引っ張り過ぎたかな?」 「えっ……いや。な、なんでもないよ。大丈夫だから……」  僕は誤魔化すように、さっさと上履きに履き替えると、急いで教室へ向かって歩いた。                       * 『さとくん』の幼馴染。『めーちゃん』こと――私『桐野彩芽』は、最近のさとくんの挙動に妙な違和感と言うか、何かを隠しているような気配を感じている。  さとくんと私の出会いは、幼稚園の時だった。  同じ『さくら組』にいた『さとくん』は、大人しくて、でもとても綺麗な顔立ちをしていて、今と同じように女の子にモテモテだった。  だけどそのことが、同じ組の男の子達には面白くなかったようで、何かにつけて、さとくんをからかったり、ちょっかいを出すようになっていった。  ある日、さとくんがクレヨンでお絵描きをしていると、例のごとく、同じ組の男の子が、ちょっかいを出し始めた。 「さとるー、何描いてるんだよ。それ女の子の絵だろ?」 「え……? ちがうよ。これは……あの……」 「おーい、みんな、さとるが女の子の絵描いてるぞー」  その掛け声を聞いて、他の男の子達も集まってきた。 「ほんとだ。好きな子の絵だろー。おまえ誰が好きなんだよー」 「す、好きな子じゃないよ……」 「おまえモテるから、調子のってるんだろー?」 「ちがう……っあ!」
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