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裕に睨まれた相手は彼女の存在をすっ飛ばして叔父に一礼して、そして改めて気付いたように裕を見る。
何だ、いたのか、と言うように。
そして。
「入学、できたんだな」とさらっと言った。
「おかげさまでっ!」裕はつんっと澄まして言う。
「その節はお世話になりましたっ!」
「いえいえ。上級生として当然のことをしたまで。ご入学おめでとう」
ちっとも、おめでとうって雰囲気じゃないーっ!!
むくれる裕を飛び越して、慎一郎は割って入った。
「私が頼んだのだから。忙しいところ、足労願ってすまない」
「いえ」
慎一郎は席を勧めた。自分の前に、つまり、裕の隣に。
慎一郎が呼んだという彼、つまり叔父の教え子の名は、岡部仁(おかべ じん)という。
少し浅黒い肌を持つ彼は、裕より2学年上にあたる。
彼女にとっては今日から同大の先輩だ。
そして、仁とは初対面ではない。
叔父を通し、何度も何度も顔を合わせている。
裕にとっては、初めて会った日のことを思い出すのも拒絶したくなるくらいの相手だ。
彼が隣に座ったことで、少したわむ座面が何とも座りが悪いソファーの上で、もぞもぞとおしりを動かす。
「裕、彼は……」
言いかけた言葉を遮って、裕はスパッと言う。
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