その災厄に、名前は無かった

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「くそっ、彼女を殺されるくらいなら!」  男は、コートの懐から一つの端末を取り出しました。 「それは、まさか? やめておけ。それは、貴方にとって最悪の選択だ!」  美しい警官が手を伸ばして叫びました。 「うるさい! 私は、私は……、彼女を、愛している!」  男が端末のボタンを押しました。 「ああっ!」  アンドロイドが叫び、男の腕の中でびくりと大きく痙攣しました。そして、ぐったりと目を閉じました。 「……なんて愚かな……」  逞しい警官が苦しげに言いました。 「これで、彼女はもう人間だ……誰が、何と言おうとも……」  男は彼女を抱きしめたまま、大粒の涙を流していました。  男が操作した端末には、アンドロイドに”自由”を与えるプログラムが入っていました。
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