その災厄に、名前は無かった

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「違う。それは、ロボットだ。貴方は、もう手遅れだ。この記録が裁判官に渡れば、間違いなく更生施設への入所が課せられることだろう。貴方を救うには、やはりそのロボットを破砕処理し、その後の姿を貴方に見てもらう他は無い」  美しい警官は冷酷に断言しました。 「破砕だと? 殺人だぞそれは! 何が違うんだ! 彼女は、人間だ! 温かい血も流れているし、怪我もすれば年も取る! おっちょこちょいで、間違いだっておかすのに! 違うとすれば、子供が産めないことだけだ! きみは、それを人間とロボットの違いだと言うのか! では、世の不妊症の女性たちは、皆人間では無いのか! それは、重大な冒涜だろう! 彼女は私を愛しているし、私だって彼女を愛している! 例え神であろうとも、この気持ちを否定することは許されないはずだ! そうだ、誰にも愛を否定する権利など無い! ……愛を、否定しては、……ならない……」  大声で言葉を吐き散らす男の胸に、アンドロイドが「愛しているわ」と、そっと顔を埋めました。 「……憐れな……」  美しい警官が瞑目して呟きました。それは、とても残念そうな顔でした。 「これ以上はもう無理です。説得が不可能と判断し、強制徴収に移ります」  逞しい警官が電磁警棒を抜きました。
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