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矛盾が理性を壊して それなのに私が、私を見つめて 問いかけてくる 暗闇で濡れた唇が蠢いている 本当にこのひとなの 利用しているだけじゃないの うるさい、と言葉が形になる前に 柔くんという現実が 絶対的な圧迫感と共に挿入ってくる 真っ白に上書きされていく視界に安心する 「翠、みどり、…」 声が聞こえる 大丈夫 私は、この人を、愛している 「愛してる、」 だいじょうぶ この人に向けた言葉は ちゃんと音になって届いている 居心地がよくて 気持ちがよくて 視界が、思考が、解けていく 愛してる、と狂ったように喘ぐ私を 柔くんがみている 軽蔑もせず、絶望もせず 心底愛おしそうに 私を見ている 「…、みどり、っ」 終わりの気配がした 視界はほとんど白くぼやけていて 熱の篭った世界で 私たちの身体だけが交わっている ぽたりぽたりと雫が 柔くんの想いが、声が 私の肌に落ちてきて そのまま私に染み込んでいけばいいと すがるように熱い身体を抱き寄せて だけど その水滴は私の肌の上を滑り落ちて 白いシーツに吸い込まれていく 愛しているのに 大切なのに なのに、どうして その背中の向こう側に 暗闇を探してしまうのだろう
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