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すぐに夢だと、気付いた 熱い手のひらが 私の腕を掴んで離さない 「ねぇ……っ」 だけどそれは 本当に拒絶の意思を示せば あるいは降り払って置き去りにすれば 追いかけてはこないものだと知っていた 「ちょ、…待って、…」 だから狡いのは私なのだ 熱い濁流に飲まれて、このまま 誰の声も届かないような 昏い闇に沈んでしまいたいと願った 「、っ…火村さん!」 彼と居たいと願った 私が 彼が振り向いて 私を見つめる 色がある筈の瞳は 辺りの闇よりも暗く漆黒で ただ眼球を潤すための液体で しっとりとーまるで涙かのように 濡れて、見えた 彼も知っている 私が望んでいること 彼もまた狡い人だ いつだって 好きになったほうが 敗けなのだ そう、すき わたしは かれが 絡んだ視線に 私は囚われてしまう 胸が締め付けられてしまう 彼は何故か笑っていた もう夢との境は消えていた 或いは自分で壊したのかもしれない 十九歳と二十九歳の私が 交ざって融けて 触れあった場所に そっと意識を研ぎ澄ませている 気付かれている それでも 息を潜めずにはいられなかった それは決して 世間的に非難される 人目を忍ぶ行為だからではなく ようやく陽の目に触れた核心を 再び仕舞いこみたくなかったからだ もうそんなことはできないのだと 知っていた
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